「ねー、光一さん」
「ていっていっ」
「光一さ〜ん?」
「ぅおりゃぅおりゃ」
「ちょっと!! 聞いてるのっ!?」
「わっ!! …あーぁ、死んじゃった…」
「あっそ。それは残念でしたね」
「ったく、何やねん! 大きな声出して」
光一さんはコントローラーを投げ出して、わたしの方を振り返った。
ちなみに今、彼はゲームをお楽しみ中である。
「何やねん!はこっちの台詞です。折角お休みだから遊びに来たのに、光一さんだけゲームしちゃってさー…」
わたしは少しむくれ気味に、抱えていたクッションを更に強く抱きしめた。
「やる?」
「それ一人用だし。RPGだし」
「おう、FF!」
そう言ったきり、彼はまたTV画面と向かいあってしまった。
わたし独りだけ取り残して…。
彼の背中は好きだ。でも、こんなのじゃ…ない…。
「……」
クッションを抱える腕に無意識のうちに力がこもる。
「……」
ひとつの空間には2人でいるのに、聞こえてくるのはゲームの音だけ。
「……」
鼻の奥がツーンとする。涙腺が緩んでいく感じがする。

“ガタッ!!”

その時、急に彼が立ち上がった。
そして何も言わず、わたしの横を通って部屋を出て行く。
思考が追いつかないうちに、彼は車のエンジンをかけて何処かに行ってしまった。
わたし独りだけ取り残して…。
「……」
状況が上手く整理出来ない。だって、あまりにも唐突過ぎたから。
ふと視線を泳がせる。その先には、さっきまで彼が遊んでいたゲームのコントローラー。
そっと触れてみる。少しだけ彼の体温が残っていた。
ほんの1分前には確かに此処にいた筈なのに、今はもういない。
感じる事は出来ても、触る事は出来ない。
その事実が、より拍車をかけて…。
「……」
さっきから溜まっていた涙が眦から溢れて頬を伝う。
それは幾筋にもなってポタポタと落ちる。彼が握っていたコントローラーに。
「……」
ごめんなさい。ごめんなさい。
一緒にいれればそれで良かったんだ。
一緒にいるだけじゃ満足出来ずに駄々をこねて…。
ごめんなさい。ごめんなさい。
………………。
………。
…。






[TOPへ]
[カスタマイズ]

©フォレストページ