夏海連載
□他人との出会い
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それは真夏の蒸し暑い日だった。
人見知りであまり男子とは関わらない私に、彼は知ってか知らずか喋りかけて来た。
「ボタンは上までしっかり留めたほうがいいぞ」
彼の名前は真田君。
月曜日の朝に校門の前で何人かの中で生徒たちの服装を正している人。
校門に入る手前、真田君は私にそう言った。
「あ、締め忘れてたんだ……ありがとうございます」
そう言って私は立ち止まり、一番上のボタンを留めてリボンを結び直した。
私はいつもボタンを上まで締めている。
制服を規定通り着るのが私のポリシーだ。
今日はうっかりしてたわ。一番上を留め忘れていたらしい。
だけど周りは一番上までボタンをしている人なんて僅かだ。
二番目のボタンが外れていたら注意するだろうけど……一番上のボタンまで注意する人は居ない。
前を歩く女子生徒の一番上を留めていないのに対して注意しなかったのに、私には注意するのか……と、些か疑問に思った。
制服を直し終わり、もう一度「ありがとう」と目を合わせず伝え、校門をくぐった。
蒸し暑い日の事で、初めて真田君と話ししたのはそんな些細な事だったと思う。