夏海連載

□滑稽を守るピエロ
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 大人しいとか、人見知りだとか、暗いとか……始めにそう決めたのは私自身だった。


 だから、そう思わない場所を一つでも作ろうと新たに決めた。













「失礼しま〜す」


 美術室に足を踏み入れた。

 この境目が私の切替スイッチだ。


「天利、遅いぞー」

 わが立海美術部の部長・野仲リコが、自らの指に赤色の絵の具を塗りながら、こちらに目を向けた。


「メンゴ、さっきそこでシーラカンスの皮に引っ掛かってなかなか立ち上がれなかったのでござるよ」


「あー、あの音楽室の前にあるシーラちゃんでしょ、私もよく転ぶのよー」


「退けれないのよね、あそこに居座っちゃってるから」


「そーそー、タツノオトシゴまでいるから、シーラちゃんが離れたがらないのよねー」


 ……あ、これは嘘です。

 まぁこんな感じで美術部では空想や妄想して作品を創作している。


 はっきり言って、ここにいる私のほうが私らしくて、とても一番居心地がいい。



 カバンを適当に置いて、画材道具や描きかけの絵を出して、描きはじめる。


「……天利の絵って、やっぱり細かくて綺麗だよね」


 いつの間にかリコが私の隣に来て、描きかけの私の絵を眺めていた。


「ありがと、まぁ小さい事とかくよくよ考えちゃうタイプだからね」


「またそんな事言ってー」


「私はリコみたいな個性的で大胆な絵を描きたいよ」


「ふふふ、ありがと。私の絵を良いって言ってくれるのは天利と幸村くらいだよ」


 リコがさりげなく「幸村」くんの名前を言ったら、目を伏せて遠くを見つめていた。


 リコと幸村くんが付き合い始めて一年が経ったと思うけど……まだ幸村くんの事を苗字呼びなんだね。


 幸村くん、今は入院してるから……やっぱりリコも寂しいんだろうな。
 
 
「今日は幸村くんの面会日だっけ?」


「うん、最近は毎日行くんだ。あ、天利も行かない? 幸村も久しぶりに私たちコンビを見たいって言ってるんだ!」


 コンビって……まぁ確かに美術部でこんな事してる所によく幸村くんが来ては笑ってたっけ。

 まぁ少しくらいならいっか……


「いいよ、行こ行こ! 洗顔パックをお土産に持ってってあげよ!」


「洗顔パック! なんて意味のないプレゼントかしら、でも面白そう!」


「じゃ、早速部活切り上げてお見舞いだね!」


 そして部活そっちのけで私たちは美術室を飛び出した。


 因みに、美術部は部員が17人いる。

 だけど幽霊部員が15人なので、毎回来てるのは私とリコだけ。


 だから結構勝手に切り上げても大丈夫だったりする。

 ま、本当はいけないんだけどね。



 
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