連載以外

□会いたい。
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 街中の賑やかな飾り付けに、私は1人寂しく歩いていた。



「ハァ」


 もうじきクリスマスを迎えるっていうのに、私は独り身か……


 タマちゃんはタコ助と二人きりで恋愛映画で、ジローくんは最近出来たばかりの彼女と遊園地。


 私? 私はもちろん1人。



「ハァ…」


 だって仕方ない。

 跡部はアメリカで忙しそうだし、私が「帰って来い」なんて言ったら仕事そっちのけで帰って来るだろう。


 呼べないわよ。




「ハァ……」


 今日何度目のため息だろう。

 結局、今日はクリスマスと跡部の事しか考えてなかったみたいだ。



 あ〜あ、もうすっかり日が暮れちゃったわ。



 虚しい気持ちを抱えたまま、家に着く。

 郵便受けを開けて覗くと、差出人が書かれていない紫色の封筒が入っていた。


 まさか、と淡い期待を寄せて封筒を開けた。



「……何よ、これ」



 やっぱり差出人は跡部だった。

 だけど……



「婚姻届って……」


 クリスマス間近にこれって…

 書かれている跡部の名前にため息を着きながらも、懐かしい気持ちでそれを眺めた。
 
 
 不意に、封筒に視線を向けて、一つ疑問が浮かび上がった。


 差出人がなくて切手も貼ってない封筒を見つめ、どうして届いたのか……いや、届く訳ない。



「まさか……っ!?」


 表に出て、目配せる。


 でも、いなかった。



 これだけ置いて帰るなんて、酷いんじゃない?


 少し位顔見せてくれたっていいのに……



「……ハァ」


 また、ため息が出た。



 寂しくて仕方ないのに、跡部はそんな気持ちも分からないのか。


 婚姻届一つ渡して帰るなんて……











 クリスマス当日。


 いつも以上に街には人が溢れかえり、幸せそうなカップルや家族がクリスマスを楽しんでいる。



 私も家族と過ごすはずだったけど、生憎、両親が仕事でいない。


「結局1人、か…」



 とぼとぼ歩いていると、スレ違う人とぶつかった。


「気をつけろよ」


「すみません…」


 あ〜あ、踏んだり蹴ったり……



「ちょっと待てよ」


 うわ、まだ何かいちゃもんつける気かしら?



 振り返り、ぶつかった相手を見た。
 
 
 
「跡部…っ!」


 うそっ、なんでっ?


 空港で見送った時と変わらない微笑みがそこにあった。


「久しぶりだな」


「ど、どうしてっ!?」


「クリスマスだろ? 好きなヤツと過ごす為に帰って来た」


「相変わらず……いきなりなんだから」


 力なく笑ってしまう自分に、跡部は優しく頭を撫でてくる。



「いきなりじゃねーだろ?」


「え…あっ、婚姻届!」


 今もカバンの中に忍ばせている。


「驚いただろ? 俺もクリスマスまで会うのを我慢してやったんだからな」


「我慢しないでさっさと会いに来てよっ!」


「悪い。でも偶然こうして居合わせたのも運命なんだろうな」


「なによ、跡部が運命とか似合わないし」


「素直じゃねーな」



 素直じゃなくて悪かったわね。
 そんな事を心で思うが、今日は反発しない。



 気持ちを整え、改めて跡部と向き合い。


「元気そうで良かったわ」


「おかえりぐらい言えよ」


「じゃあ、おかえり…跡部」


 満足したのか、跡部はニヤリと久しぶりの笑みを見せて…


「ただいま、会いたかった」
 
 
 跡部は囁くように返すと、引き寄せるように抱き締めてくれた。




 カッコつけ過ぎなのよ。

 でも、すごく嬉しい。




 婚姻届を跡部に渡してやろう。


 私の名前付きの婚姻届を見て、どんな顔するかな?



 それが分かるのは、もう少し後になるかもしれない。





 もう少し、このまま抱き締めていたいから…





《END》





 



 番外編と言うより、エピローグを書かせて頂きました。

 満足して戴けましたか?
 また気が向いたら勝手に書いてるかもしれません。

 では、また会いましょう。


 

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