連載以外
□厄介な病気
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私はどうやら最近流行りの厄介な病気になっちゃったみたい。
「……と、言う訳で、今日の部活は休みます」
私の病気よりも厄介な相手である幸村部長のクラスへ、わざわざ足を運んで来たのはいいけど、幸村部長は明らかに聞く耳を持っていないご様子。
目を合わせてもくれないし、分厚そうな本を開いてその中に並べられている細かい文字に視線を向けていて、私がここにいる事すら知らないのではないかと思ってしまうほどだ。
「……どうしても休みたいの?」
数秒間の空白を経て、ただ一言だけ発せられた意外な台詞に、私は少し驚いて「うん」と返事をしてから2、3回ほど頭を縦に振った。
「じゃあその病気の原因である人物の名前を教えてくれたら、今日は休んでも構わないよ」
視線はそのままなのに、幸村部長の顔はいつもより少し不自然に微笑んでいた。
無理に笑ってる感じ?
「……からかってるでしょ」
「フフ、楽しいからね」
ムッとして私は「幸村部長!」と喝を入れる勢いで言った。
すると、何故か幸村部長は動きを止めて振り返って来た。なんだなんだ?
「……それなら、尚更休めないだろう?」
動きが止まっていたのに、次第に微笑みを浮かべる幸村部長。
私まで動きを止めて、その微笑みに見入った。
私はやっと事の成り行きを知り、訂正しようと思ったのに、何故か言えなかった。更に厄介な病気にやられたのだ。
「……恋の病じゃないってば」
自信なく言い返してみても、幸村部長は「顔、赤いよ」と笑っていた。
「今日の部活は休んでいいよ。風邪なんでしょ?」
「なんだ、分かってたんだ。じゃあお言葉に甘えて……」
「明日は出て来るんだよ。部長命令……と、彼氏命令?」
なんで最後に「?」なのよ。それに彼氏命令って……期待するぞコノヤロウ。
「キスは1ヶ月後がいいです」
風邪の勢いで言ってしまったが、更に熱くさせるような微笑みを私に向ける。
「それは俺が決める」
そうですか。と返事を返し、ふらふらした足で教室に戻った。
右隣りに幸村部長を従えて……
《END》
後日、キスは私の風邪が治った次の日にされました。
あの微笑みは危険です。