お昼寝日和

□ΩGreen−Caterpillar Happening
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ここ数日、雨が降り続いている。真っ黒な雲が空を覆い、大粒の雨を降らしている。まだ生徒が残っているので静まり返ってはいないが、夕方近くになって一人で廊下を歩いているとなんとも心細い気持ちにされる。
「って、子供じゃないんだから…」
預かった書類を胸に抱え、啓太は小さく呟いて苦笑する。さてと、と気を取り直して学生会室に向かおうと階段の前を通りかかると、
「い、伊藤君!!どいて〜!!!!」
と言う海野の声が聞こえ、啓太は驚いて顔を上げた。片手に書類の束を抱え、片手に実験器具か何かを抱えた海野が階段の上で叫んでいた。
「う、海野先生!?」
啓太が叫ぶと、海野は、
「う、うわぁ〜!!!!」
と叫んでバランスを崩し、実験器具を乗せたトレーを放り投げた。気付いた数人の生徒が騒ぎ出し、啓太は慌てて蓋をされている試験管に手を伸ばした。後ろで何本かが割れる音が聞こえたが、五本ほどの薬液の入った試験管をなんとか無事にキャッチすることが出来た。
「う、海野先生、大丈夫ですか?」
階段の上で書類を掻き集めている海野に問いかけると、海野は、
「うん、僕は大丈夫だけど…、伊藤君、怪我しなかった?大丈夫?ごめんね、僕…、足、滑らせたみたいなんだ…」
と困った様に笑った。啓太は試験管を差し出し、
「とりあえず、無事な分です」
と言って苦笑した。ふと階段の下を見ると、一部始終を見ていた生徒達が割れた試験管を片付けていてくれた。と、啓太は我に返り自分の手を見た。七条から預かった西園寺の書類がない。
「あ、あれ!?」
啓太が慌てて階段を駆け下りると、
「あれ?これも海野先生のか?」
「うっわ…、びしょびしょ。ダメだな、こりゃ…」
と言う声が聞こえ、啓太は、
「あ〜!!!!」
と悲鳴の様な声を上げた。
騒ぎを聞きつけた篠宮が駆けつけ、その場は何事もなかったかのように片付けられていく。啓太がびしょびしょに濡れてしまった書類を呆然と眺めていると、
「おや、伊藤君?」
と言う七条の声が聞こえ、啓太は顔を上げた。
「一体どうしたんですか?さっきから騒がしいなと思って出てきたんですが…」
七条が言うと、
「あ、七条君。ゴメンね、この騒ぎ、僕の所為なんだ…」
と言って海野が駆け寄ってきた。
「何があったんですか?」
七条が問いかけると、海野は事情を説明し始め、啓太は、
「……し、七条さん…、あの…」
と言って恐る恐る書類の入った封筒を見せた。七条はそれを見ると、
「おやおや…」
と言って苦笑した。
「ごめんなさい、七条さん!!!!俺の所為です!!!!俺、西園寺さんに謝ってきます!!手伝えることがあったら手伝います!!!!本当にすいませんでした!!!!」
啓太がそう叫んで頭を下げると、海野は、
「それ、伊藤君のだったの!?し、七条君!!伊藤君はね、僕が落としちゃった試験管を拾おうとしてくれたんだ!!!!だから、あのね…!!!!」
と慌てた様子で声を上げた。すると七条は苦笑し、
「伊藤君」
と言って啓太を見た。啓太が恐る恐る顔を上げると、七条は微笑み、
「大丈夫ですよ。書類はまた作れます。伊藤君や海野先生に怪我がなくて良かった」
と言って今にも泣き出しそうな啓太の頭を撫でた。
「海野先生も、大丈夫ですよ。雨の日は滑りやすいですから、気を付けて下さいね」
七条はそう言って微笑むと、啓太を連れて学生会室に向かった。
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