お昼寝日和

□ΩHAPPY BIRTHDAY
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夏の茹だる様な暑さの中、俺は家に向かって歩いていた。肩から掛けた鞄には寮に持っていっていた普段着と制服が入ってる。
「…ただいまぁ…」
小さく言って靴を脱ぐと、バタバタと音を立てて朋子が飛び出してきた。
「おっかえりなさい、お兄ちゃん!!!!」
嬉しそうに叫ぶ朋子の頭をぽんぽんっと撫でて、俺は、
「ただいま。晩御飯まで部屋にいるから」
と言って部屋に戻った。
冷房をセットして荷物を投げ出すと、俺はベッドに倒れ込んだ。
ポケットから携帯を取り出して、ベッドに投げ出す。
八月十日。本当なら帰ってくる予定はなかった。帰ってきなさいよ、と母さん達からは言われていたけど、帰るとはっきりと返事をしたわけではなかった。帰ってきた理由は一つ。昨日になって王様が今日から二十日まで家に戻ると言い出したからだ。
用事があって、と言われてはどうしようもない。しかもショックを受けてる俺に追い討ちをかけるように王様はいつもの笑顔を見せて言ったんだ。
『折角の夏休みだし、お前も家に戻ってゆっくりしてきたらどうだ?』
と。夏休みの宿題は信じられないくらい早く終わった。それは勿論、王様に見てもらったからだ。八月になって寮に残ってた皆で海にも行ったし、それなりに満喫してた。でも今月は俺にとっての一大イベントがあるんだ。王様の誕生日。寮にいれば祝う事は簡単だ。だっていつも一緒にいられるんだから。でも家に戻ってきてしまってはそうはいかない。何とかして十五日に会いたい。
「…でも、王様…誕生日なんか忘れてそう」
小さく呟くと溜息が漏れた。とりあえず、電話もメールもするから、と言ってくれた王様の言葉を信じて、俺は王様からの連絡を待つことにした。



家に戻ってきてから早くも五日。今日は王様の誕生日だって言うのに、王様からの連絡は一切ない。そりゃあ俺だって待ってるだけ、なんて事はしてない。かけてみたけど、『電波の届かないところにあるか、電源が入っていないためかかりません』という冷たいガイダンスに繋がれてしまったんだ。一回くらいは仕方ないと思えるけど、それが二度三度となると仕方ないとも思えなくなる。四度目にそのガイダンスを聞いて、俺は電話をかける気力も失っていた。
窓の外は綺麗に晴れ渡っている。こんな日に海岸で昼寝でもしたら気持ち良いだろうなぁ、なんて王様みたいな事を考えながら、ぼんやりと空を眺める。部屋は冷房が効いてて心地良い。でもきっと外は暑いんだろうなぁ、と考えながら、俺は溜息を漏らした。
『じゃあな、啓太。また学園でな』
電車に乗る前に王様が言った言葉を思い出して、俺は絶望した。まさか本当に学園に戻るまで会わないつもりなんだろうか?そんな事になったら王様の誕生日なんかとっくに過ぎてるって事になる。それに学園に戻る予定は二十一日だ。という事はあと一週間近く王様に会えないって事か!?
そんな俺の思考を遮るように軽快なメロディーが流れ出し、俺は飛び起きて携帯を掴んだ。画面を見なくたって分かる。このメロディは王様だ。俺は通話ボタンを押すと同時に、
「王様!!!!」
と声を上げた。少しの沈黙の後、押し殺した笑いが聞こえ、
『よぉ、啓太。その調子じゃ元気そうだな』
と言う王様の声が聞こえて、目の奥が熱くなった。電話もメールもくれない、電話が繋がらないと拗ねていたはずなのに、王様の声が聞こえた瞬間に嬉しくて嬉しくて仕方ない。
『悪かったな、連絡してなくて。ってまだ四日しか経ってねぇけどな。戻る前に不安そうにしてたから、落ち込んでんじゃねぇかって心配してたんだぜ?一応』
王様が言い、俺は泣き出しそうなのを必死に堪えた。落ち込んでました。ずっと王様の電話を待ってました。
言いたい事は沢山あるはずなのに、泣き出しそうなのを堪えるだけで精一杯だった。
『おい、啓太?聞いてんのか?』
王様の声が聞こえ、俺は、
「……はい」
とやっとの思いで声を出した。少しの沈黙の後、
『お…お前、まさか泣いてんのか?』
と言う王様の声が聞こえ、俺は、
「…だって…」
と小さく声を漏らした。何か言わなきゃと焦れば焦るほど、涙が堪えきれなくなって溢れ出した。嗚咽が漏れ始めてもうどうしようもなくなって、俺は、
「……お…さまぁ…」
と声を漏らして泣き出した。
『お、おい、啓太!?一体どうしたんだよ!?電話しちゃまずかったのか!?』
王様の慌てた声が聞こえ、俺は、
「ちが…!!だって…王様電話もメールもくれるって言ったのに…くれないし…!!電話かけても電波の届かないところにあるか電源が入っていないためってなって繋がらないし…!!!!」
と叫んだ。叫んだ拍子にボロボロと涙が溢れ出し、俺はどうしようもなくなってベッドに顔を埋めた。
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