お昼寝日和

□ΩEXAMINATION
1ページ/10ページ

午後の授業を終え、啓太はもそもそと教科書を片付ける。チャイムが鳴って教師が出て行き、教室の中がざわめき出す。
「啓太、大丈夫か?」
横の席から様子を伺っていた遠藤が遠慮がちに問いかけ、啓太は小さく頷く。
落ち込んでいる原因の一つは試験だ。授業は分かり易いし、分からなければ遠藤が教えてくれる。それでも分からなければ、丹羽や中嶋に聞けば教えてもらえる。ここまで落ち込んでいる原因は、昨日の放課後の、丹羽と中嶋の言葉のせいだ。
「……はぁぁぁ…」
大きな溜息を漏らして机に突っ伏す啓太を心配そうに見ながら、遠藤は深く追求はしてこない。そんな優しさに安心しながら、啓太は憂鬱な気持ちを抑えることは出来なかった。
「まだ試験まで一週間もあるじゃないか。大丈夫だって」
落ち込んでいる原因は試験の所為だろうと思い、遠藤が呟く。啓太は小さく頷くと、
「……一週間…かぁ…」
と言って項垂れた。
昨日の放課後、いつもの様に学生会室に行って丹羽と中嶋の手伝いをした。出来る作業は限られてはいるが、最近はやっと慣れてきて、一つの仕事にかかる時間も短縮できるようになった。トントン、とコピーした書類を整えている啓太に、中嶋が一言漏らしたのだ。
「試験は大丈夫なのか?」
馬鹿にしているような口調でもなく、心配しているような口調でもなかった。その奇妙とも思える冷静な言葉に、啓太は一瞬頬を引き攣らせた。
「…何とか…大丈夫だと思いますけど…」
啓太が恐る恐る呟くと、中嶋は、
「試験が終わるまでは、無理に手伝わなくていいぞ」
と言って書類を丹羽に渡す。丹羽はそれを受け取りながら、右手に持った書類を確認している。啓太が黙り込んでいると、丹羽は心配そうに啓太に視線を移し、
「誤解するなよ?別に此処に来るなって言ってるわけじゃねぇんだ。お前だって勉強はしなきゃいけねぇしよ。此処に来てくれるのは嬉しいが、こうやって手伝わせちまうだろ?一回手伝わせ始めたら、次はこっち、終わったらこっちって、寮に戻るのは夕方か遅ければ夜だ。そんな状態で試験なんて、あんまいい状態じゃねぇだろ?」
と呟く。啓太が口を開こうとすると、中嶋は、
「啓太」
と呟いた。啓太が中嶋を見ると、中嶋は、
「試験の範囲は発表されたんだろう?」
と問いかけてきた。啓太が小さく返事をすると、中嶋は、
「お前はしばらく、試験に専念しろ」
と言ってパソコンを見る。忙しいのは相変わらずだ。啓太がいようがいまいが、二人はしっかりと仕事を終わらせられる。
「…分かりました」
啓太が小さく呟き、書類の整理に戻ろうとすると、中嶋は、
「啓太」
と困った様に呟いた。はい?と言って啓太が中嶋を見ると、中嶋は、
「此処に入るな、と言ったわけではないぞ?」
と言って眉間に皴を寄せる。啓太が頷くと、丹羽は、
「分かんねぇトコがあったら聞きに来い。此処でも教室でもいいし、寮だっていい。試験の間はこっちの事考えないで、お前は勉強に専念しとけよ」
と言って微笑んだ。啓太は小さく頷くと、書類の整理に戻った。
妙な空気が学生会室を包んでいた。啓太は書類の整理を終えると、まだ終わらないから、と言われ、一人で寮に戻ることになってしまった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ