FF零式

□Anfang
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「…っ、い…てて…」
小さく声を漏らしたエースは、生い茂った木々の隙間から降り注ぐ光を遮るように手を翳し、上を見上げる。
エースの頭上には、あと少しというところで取り損ねた真っ赤に染まった林檎が、光を受けてキラキラと光っている。
「あと、ちょっとだったんだけどな…」
エースが小さく呟くと、目の前に緩く開いた手が差し出され、エースは驚いて視線を向けた。
「大丈夫か?」
怒るでも、呆れるでも、笑うでもなく問い掛けてきたのは『キング』だ。
まだ此処に来て日が浅いこともあるが、寡黙な雰囲気の彼とはまだあまり言葉を交わした事はなかった。
「う、うん…」
エースが小さく呟き立ち上がろうとすると、右足に痛みが走り、エースは顔を顰めた。途端、ふわりと身体が浮いたかと思えば、キングに抱き上げられていた。
「わ、わわわっ!!」
驚いたエースが反射的に腕から逃れようと暴れると、
「暴れるな。足を痛めたんだろう」
と低い声が耳元で聞こえ、エースは、
「じ、自分で歩けるよ」
と弱々しい声を漏らした。
「良いから、大人しくしていろ」
キングが呟き、エースは黙り込み、大人しくその腕に抱かれた。
「マザー」
一室のドアをノックしてキングが言うと、
「キング?入っていらっしゃい」
と言うアレシアの声が聞こえ、キングは静かにドアを開け、中へと入った。
「まぁ、エース?どうしたの?」
驚いたように目を丸くしたアレシアに言われ、エースは、
「あ、あの…」
と小さく声を漏らした。
「足を痛めたみたいだ」
キングが呟き、エースの身体をソファへと降ろす。
「足を?見せて、エース」
アレシアに言われ、ソファの上で身じろぐようにして足を出すと、
「少し腫れてるわね。大丈夫、すぐに治るわ」
とアレシアが呟き、優しい微笑みを浮かべる。
治療を施されるうちにずきずきとした痛みが消えていき、エースは安心したように小さく溜息を漏らした。
「もう大丈夫ね?」
アレシアに優しく問い掛けられ、エースが頷くと、アレシアは、
「キング、ありがとう」
と言って治療を見守っていたキングを振り返り、キングは、
「大した事じゃない」
と言って部屋から出て行った。
結局、お礼の一言も言えなかったとその背中を見送っていたエースの耳に、柔らかな笑い声が聞こえ、エースは、
「…マザー?」
と小さく声を漏らしてアレシアを見上げる。
「大丈夫よ、キングは優しい子だから。キングだけじゃない。此処にいる皆、優しい子よ」
エースの気持ちを見透かしたように呟き、ふわりと頭を撫でられる。
皆と違い、あまり笑わず、あまり喋らない彼を少し恐れていたのは否定できない。だが、アレシアの言葉や先程の事を思い出してみれば、それは自分の思い違いなのではないかと思い始めている自分に気付く。
「…マザー、ありがとう」
エースはそう言って笑顔を見せると、柔らかな微笑みを浮かべて自分を見るアレシアに背を向け、外へと走り出した。
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