創作

□ぐちゃぐちゃ
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赤は、赤だった。
俺にはそれしかいえない。
血にも見えなければ、絵の具でもクレパスでもトマトケチャップでもない。
ただ赤い。
ルーは喜んで赤の真ん中辺りに行く。
「ばちゅー、びちゃー、べちゃー」
ば行にちゅーを付けた言葉をリズミカルに言いながら俯いて飛び跳ねる。
濡れている音もしない。聞こえるのはルーの歌うような言葉。
俺は興味本位で赤に触れた。
「?!」
ヌルリ、と手に赤が纏わりつく。
それだけで、赤が俺にとって恐怖に変わった。
何故。
無臭。
平面。
無音。
そうだ、これは絵の具が床に染み付いているんだ。
絵の具、絵の具だ。
いや、ケチャップ。ケチャップだ。
いいな、俺。
これは血なんかじゃない。
血じゃない、血じゃない、血じゃない、血じゃない、ちじゃない、ちじゃない、ちじゃない、ちじゃないちじゃないちじゃないちじゃないちじゃない――――――――。


「ぐちゅー、ぶちゅー、べちょべちょびちょー」
そう思うと、何だかルーの歌が妙に怖い。
「ルー止めろよ、な?」
「ぶちゅぶちゅー、べちょー、ねちょー」
ルーは話なんてちっとも聞こうとしてくれない。
「ルー…」
「びちゃー、ぐにょー」
声が消えそうになる。
「頼むから、やめて……くれ」
俺は赤に足を踏み入れた。
ルーが顔を上げた。
「――――――――!」
微笑むルー。
その微笑は俺にとって初めてみるタイプ。
その笑みを言葉で表現すると、そう。
「ばけ……もの」
ルーは微笑みつづける。
「なあ、なんなんだよ。この赤。それに此処はどこなんだよ!なあ、ルー。知ってるだろ?」
やけくそだ。
「潰すのー、ゴミを」
ルーの声は感情の篭っていない声で呟く。目に光がなく、その目は下の何かを捕えている。
「ゴミ、だものー。いらないからー、潰して、捨てるだけー」
ぐちゃっ、とルーが足をまた動かし俺の耳にその音は纏わりつく。
「ねー、かんたんだよー」
やけに今度は嬉しそうな声で俺に笑いかける。
俺の足はルーから離れるのではなく、近付いていく。ルーもそれが分かっているようで、少しだけ後に退いた。
あと三歩。
ニ歩。
一歩
零―――――――――――――。





「うそ、だろ……」




ルーの足下から見えた光景にいたのは、俺に暴力を振るっていた男達。
――――――――思わず目を瞑りたくなるようなほど酷い姿で、確証はないが。


「ねーねー、一緒にふもー」
ルーが俺の手を引いて赤の中心部に誘う。
「ぶちゅー」
男の一人の手が変な方向に折れ曲がる。
「べちょー」
別の男の鼻が潰れる。
「ぐちゅぐちゅー」
最後の男の口から大量に溢れ出る血。

「やめ、ろよ」
「なんでー?楽しいし、この人たちゴミだからいいよー」
アイツらが別にゴミとして扱われ、殺されようが俺はどうも思わない。寧ろ喜ぶかもしれない。別にそれでいい。
俺がやめて欲しい理由は――――――――








「みたくない、関わりたくないんだよ……おれが」


ただ、それだけ。
何所までも自分勝手な我侭。
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