創作

□ぐちゃぐちゃ
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腹部に思い切り蹴りが入る。俺は歯を食いしばって耐えた。
「オメーなんかいらねえんだよ」
(消えれるなら消えるっての)
仰向けになった俺の背が踏みつけられる。体が圧縮されているような錯覚に囚われる。
「ゴミだし、マジ」
(お前等もだろ)
髪の毛を思い切り捕まれて上半身を上げられる。
「きめえし、うぜえしお前さいあくー」
そして顔面に鈍い衝撃。
「きゃははははっ!」
痛い、いたい。
この痛みは肉体的な物なのか、精神的なものなのか。よく分からない。
男達の下品な笑い声が俺の耳に残る。
それはとても気持ち悪い物であり、俺を現実に引き止めている。
消えたい。今すぐに。
やり返したい。せめて俺と同じかそれ以上の痛みを。
死んでしまえ。いっそのこと。
ああ、世界が真っ白に染まっていく。




ぐるぐるぐるり。
世界が回る。
ぐにゃぐにゃぐにゃり。
景色が歪む。
ぐちゅぐちゅぐちゃり。
何かが潰れた。








「おーい、起きろー」
幼さ残る間延びした少女の声。
知り合いにこんな声をした子はいなかったし、何より体が重くて起き上がれない。
「起きろー、起きろー!」
ツンツンと、頬を突付かれる。たまに深く突き刺さって痛い程度で、然程のダメージはない。
突付かれるのが止んだかと思うと、ゴソゴソと漁る音。何を漁っているのかを見ようにも、目さえ開けられない。
「これー、これだー!」
目当ての物を発見したのか、飛び跳ねる音がする。そこまで見つかって嬉しい物なのだろうか。そう思うと余計何なのか見たくなる。
開け、俺の目。見せろ、知らない奴。
「えいっ、やー!」
バシャッ
「……つめたっ!!」
「にゃははー、起きたー起きたー」
勢いよく顔に水をかけられ、俺は飛び跳ねるようにして起き上がる。何故か知らないが体はもう重くなければ、目も何度でも瞬きが出来る。
少女は俺の顔を指して、腹を抱え込んで笑っている。俺の顔がそんなに面白いのか……?
失礼なガキ、と俺の中のこの少女に対する情報に付け加えられた。
「せーすい、せーすい。疲れ、とれたー?」
「は?」
前半の意味を理解するのにおよそ二分かかった。まさかこんな時にファンタジーに出てくる聖水という意味だとは思わなかった。後半の言葉からして、俺の体の疲れが取れたのは聖水というものを掛けたから、と勝手に判断してみる。
この少女からはそんなに情報が得られない気がする。
取り合えず、周りを見てみる。
白、白、白。
白、白、白。
白、白、赤。
白しかない空間の遠くの一部分の底が赤かった。
綺麗に四角形のパネル見たく赤くない。遠目で見る限り、まるで幼稚園児が乱雑に塗りたくったような感じだ。詳しい事は近付かないと分からない。
「あそこ、行くー?」
いつのまにか笑っていなかった少女が俺の服の裾を引っ張った。俺がじっ、と赤い部分を見ているのに気付いたようだ。
行く、とは直ぐに答えが出せなかった。
俺の考えからすると、赤は明らかに何かある。
白だらけの空間に赤が一部分だけあるなんて怪しすぎる。
「って、おい!」
少女は俺が迷っているのを無視して、先に進む。
俺は少女を追いかけた。



先を歩いていた少女が止まった。危うく俺は少女にぶつかりそうになる。
少女は無邪気な笑顔を見せて振り返る。
「ねー、ねー。なまえ、はー?」
「なま、え」
名前=人の氏名。
この場合、俺の名前。
「俺の名前は……しら――――」
「あのね、ルーだよー!」
人の名前を聞いておきながら無視かよ。
名前を名乗る最中に自分の名前を名乗る少女こと、ルーに少しイラつく。
……抑えろ、俺。相手は少女。小さなガキ。俺は年上なんだから、心を広くもたなくては。そう言い聞かせる。
ルーを見ると、完全に俺の名前の事はスッカリ忘れているようでまた前に歩いている。
また、ルーが振り返る。
「ねー、ねー」
ルーは止まっては質問。答えを無視して勝手に話して先先進む。それを何度も何度も繰り返した。
そのおかげで、赤にたどり着くまでに長い時間がかかってしまった。
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