シュライヤ・バスクード


□雨のごご
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―ザァァァァ…





『あ…雨だ』




一人、午後も過ぎた静かな店内でポツリと呟いた。


天気予報のせいか、こんな小さなパン屋に今日は買い物に来るお客さんも少なかった。

ガラスケースに肘をついてボンヤリと窓の外を眺めていると、うとうとしてきた頭にバチッと目覚めさせる姿が私の視界に飛び込んできた。
その人は急に降り出した雨から逃れるように店の入り口に少しだけある屋根の下に立ち、雨宿りをしていたが雨脚が強かったせいで頭からビッショリと濡れてしまっていた。

私はまだ店内に入ってくるかも分からないその姿に、ピンと姿勢を正した。




―その人はたまに、この店に来るお客さん。

だいたいは1人で来るが、小さな子供を連れてる時もある。(「兄ちゃん」と呼ばれていたから、あの子は妹さん)

私はいつも店内に入って来るまでの彼を見る事はできるが、彼が一歩店内に入ると顔を上げれなくなってしまう。
そのせいで商品を受け渡す時やお釣りを渡す時、いつも無愛想な店員だと思われてるだろうなと胸が苦しくなった。






彼は、密かに私が想い焦がれてる人であった。

でもまだ1度も会話という会話は交した事はない。


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