霊剣戦記

□第二話 海の子が風を宿して
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「ソーチェ」
「ん、なあに?」
齢十八にしては、やや大人びた二人の少女が西の大陸の港町ダガンの酒場(といっても昼間である今は飲食店として経営している)で軽食を取っていた。
「これからどこに行く?」
不安げに尋ねる少女の髪は短い。しかし海を思わせる美しい青色の髪だ。
うっすら日焼けした体は女らしさには欠けるものの、適度に鍛えられた筋肉が健康的な印象を与えた。
「今大陸の南端にいるから、とりあえず街道沿いに北上しよう」
「・・・どれぐらいかかりそう?」
彼女の名前はロアノ。
とある島に住む部族の族長の養女だ。次期族長の候補だが本人にその自覚はほとんどない。
血は繋がらないが族長の義父とは仲が良い。母親は分からず、たまたま族長が海水が浸食してできた洞窟に入ったところ捨てられていた赤ん坊のロアノを見つけたのだ。
肩で切り揃えられた若葉色の髪の同い年の友人ソーチェが眉をひそめる。
「んー、徒歩だと大体三日ぐらいかかっちゃうかなー。凶暴な動物や夜盗がはびこってるらしいから野宿も危険だし」
「そっか。じいたちがつけた護衛の戦士でも歯が立たないかなぁ」
「無理無理!あんな平和ボケした戦士じゃダメだって!」
「うーん、そうなのか」
幼馴染のソーチェと二人でこの町を訪れていたロアノの首には、青く輝く雫型の大粒な宝石がにはめ込まれたチョーカーがある。ロアノの家に代々伝わっている神器で、一族のみが身につけることを許される大切なチョーカーだ。
「この大陸に来て、確実にこれの力が強まってる。どこかにより大きい欠片があるんだわ」
そう言い、ロアノは首のチョーカーに手を添える。直接触れなくても熱した石から熱気が伝わってくるように、石の力が伝わってきた。
この石に関して、ロアノが義父から聞いた言い伝えは、こうだ。
はるか昔、北の大地で先祖が悪魔の集団を打ち倒した。その時に使った、この世界を生み出したと伝えられる創造神から授かった『霊剣』の刀身部分の欠片がこの石だそうだ。
なぜ剣の形で残っていないのかは詳しく残されていないが、大方悪魔の総大将を倒したときに相打ちになり剣が砕けてしまい、欠片があちこちに散らばってしまったのだろう。
この石がどうやって誕生したかについては特に関心のないロアノだが、育ててくれた義父が今こそ霊剣を復活させる時だと突然言い出し、島を飛び出して霊剣を復活させろといわれたときは絶句した。
義父いわく、北風が運んでくる悪魔の総大将が振るったとされる『邪剣』の気配が日に日に強まっているとのことらしい。

そう、族長一族には不思議な力を宿した人間がよく生まれる。現族長は風が運んでくる人間の声を聞くことができる。族長本人は風の声を聞く能力と称している。
「と言ってもな。ただ闇雲に探しても時間かかるわよね。東の大陸や中央大陸にもないとは言い切れないし」
「うん。でも、この大陸に大きい欠片が眠っているのは間違いないわ」
ロアノはテーブルの上にあるカップを強く握りこんだ。
中身はもう全部飲んでしまったがまだほのかに暖かい。
テーブルの上の皿が全て空になったことを確認し、ソーチェが主人に勘定を払おうと銀貨の入った皮袋を取り出した。
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