季節小説
□寒さ凌ぎ
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寒さ凌ぎ
未だに幼さの抜けない少女は、凩の吹く村の真ん中に立ち、空を見上げていた。
彼女は待っているのだ。心の底から大好きな妖怪のことを。
たしか約束では今日来てくれると言っていた。前に別れてから、今日のこの日をどれだけ楽しみにしていたことだろう。
――いつの間にか、ううん、むしろ最初から、私はあなたが好きだったんだ。
村に預けられてから何年も経った今でも会いに来てくれる。それがすごくすごく嬉しい。
そして時間を忘れてずっと話をしているとすぐに日が暮れちゃって、とっても悲しくなる。まだ一緒にお話したいのにって。
また今度と言われても、りんは彼から離れたくなくて、『このままずっと一緒にいれたらいいのに』、なんてつい我儘になってしまう。
それだけ想われている殺生丸の方も、離れなければならないのは実に名残惜しいこと。
そんなりんの我儘な一面を見て、涼しい顔をしてはいられても、感情的にはそうではなかったりする。あくまでも表情には出さないのだが。
そんなこんなで、りんは寒さすら忘れてしまうくらいに嬉しさで溢れていた。
すると……、
「あっ!殺生丸さま!」
翻った髪が一筋の光になってりんの目に映った。殺生丸は音をほとんど立てずに地上へと降り立つ。
この瞬間が一番好き。だってほんの一時だけだけど、殺生丸さまと一緒にいれるから。
「……今日は何もない。」
言われてりんは、殺生丸の手には何もないことに気付く。
……ってことは、今日は私に会うためだけに来てくれたんだね。
「ううん、殺生丸さまに会えるだけで嬉しいよ。」
「………そうか。」
素直だな、と殺生丸が心で笑うと、りんが突然手を重ねてきた。
「こんな寒いのにありがとう。…て、あれ……あんまり冷たくないや。暖めてあげようと思ったのにな」
殺生丸の左手を両手で包んで暖めようと頑張るりんだが、明らかにりんの手の方が冷たくかじかんでいた。
手の大きさからも、いかに人間が儚いのかを象徴しているよう。
「……外で待っていたのか。」
殺生丸の右手がりんの頬を優しく撫でた。そこも風に吹かれ冷たくなっている。
「はい!だって殺生丸さまに早く会いたかったから……」
りんは笑顔を咲かせて殺生丸の手のひらの温度を感じた。
「…風邪を引く。」
言って、殺生丸は頬にあった手を顎をとるようにし、突然の出来事に驚いたりんの可愛らしい唇を塞いだ。
「……んっ」
唇を重ねることは初めてではないが、村の真ん中ということが大胆すぎて嫌なのか、すぐにりんは拒もうとする。
しかし、それすらも愛しく感じられた殺生丸はりんの意に反し、りんを抱き締め、甘いそれを深く深く味わった。
何度も繰り返された口付けに、力の抜けてしまったりんは殺生丸に倒れこむようになり、彼はりんを大切に抱き締める。
息が乱れる中、りんは途切れ途切れに言った。
「なんで……、こん、な場所…で…っ」
私には見えないけれど、多分きっと絶対犬夜叉さまやかごめさま達が見てたよっ。恥ずかしい……!!
りんが恥ずかしさに顔を臥せていると、殺生丸はにやりと笑った。
「……これで寒くはなくなったろう?」
小さく耳元で呟かれて、ますます顔を真っ赤にするりん。
よりによってこんなところで!なんて思っても今更。
結局は『この人が大好きだから』と、なんでも許してしまうのだから。
「……うん。
殺生丸さま、大好き。」
――周りでは、目撃した犬夜叉が石のように固まったり、弥勒は『あんなふうに周りを全く気にしないような性格になってみたいものです』等と戯言を言っていたりしたとか。