小説1
□想いと共に巡る風
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自由を追い求めては、あの邪な魂の塊にいつだって邪魔をされる。
だからこうやって、命令も何もされていないときにも外に出歩いていた。それが神楽にとって一番気が楽に持てる時で。
羽飾りの上に乗り、緑溢れる森や雲掛かっている山の上を通過した。
まだ誰も踏み入ったことない場所を散策すると、いつも何かに縛られた自分を忘れられるような気がした。
そうして頭に出てくるのは、ある人物。
しかし、特別何かを考えているわけじゃない。
ただ、こうしてぼーっと漂っていると、何故かあの男の姿が心に思い浮かぶ。
(………殺生丸…。)
本来ならば敵である筈のその男が、どうしても脳裏から離れないのだ。
彼は暗闇に照る月にも似た容姿を持ち、女性のように美しい。しかしその身体には、戦国最強とも称された凄まじいくらいの妖力を備え付け、今尚強さを求めて旅を続けている。
いつからだっただろうか、神楽は無意識のうちにも彼が琥空に見える気がしてならなくなった。
(あんたは今……何処にいる?)
そんなことを考え始めると、自分の胸にはないはずの心臓なのか何なのかがきゅっと締め付けられるような気がした。
(ふ…馬鹿みてぇだな……。)
神楽は生きているのではなくて、奈落によって生かされているだけ。
心臓を握り潰されたら跡形もなく消え去ってしまう身。
(なのに、こんな気持ちを持つのは、ただの馬鹿だ。
そうだろう?殺生丸……。)
ゴオッと音を立てて進んだ後には、もう何も残っていなかった。
何故ならば、彼女は風の化身であったから――――