長編小説部屋〜桜の降る丘で〜

□Scene3 幼桜
1ページ/6ページ

はふ」
小さく溜め息なんかつきながら、それでも足音は最小限に保ちつつ、ユフィは宿の廊下を歩いていた。
クラウドとバレットの部屋からは、何も音がしない。
多分、二人揃って酒盛りに参加してるんだろうな、とユフィは思う。実際、階下からはシドの歓声が機嫌よく聞こえてきた。
この分ならアイツもいないかな?
ユフィが安堵して一歩を踏み出すのと、そのいないであろうと思われた張本人がドアを開けたのはほぼ確実に同時だった。
「ぁ…」
「…」
瞬間ユフィの頬に椛(もみじ)が散る。
それを悟られないよう、腕を覆う布でさりげなく顔を隠しながら、ユフィはつっかかるようにヴィンセントに問いかけた。
「しっ…シドと一緒じゃなかったのかよ?」
「私は騒がしい所は苦手だ。それに、酔っ払いも」
ああそうですか、と刺々しく怒鳴りつけたい気持ちを抑え、ユフィは唇を三日月型に繕った。
「へぇ…てっきりお酒飲んで騒いでるかと思ったのに」
「私をシドやバレットと同じにするな」
「なんだ、ヴィンセント弱いの?」
「そういう問題じゃない。酔っ払いに絡まれるのはごめんだ。それに私が参加しようとしまいと、私の勝手だろう」
頬に散った椛をごまかそうとすればするほど、つっかかる言い方になってしまう。
なのにヴィンセントは、そんなユフィのトゲをいとも簡単に避けてしまうのだ。
それがまた腹立たしい。
「じ…じゃ何で出てきたのさ?参加しないなら出る必要ないだろ?」
「風に当たろうと思ってな」
「だ…だったら窓開ければ」
「ユフィ」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ