長編小説部屋〜桜の降る丘で〜

□Scene5 葉桜
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深緑の、丘。
それが今のこの場所を表す手っ取り早い言葉だろう。
突き刺すような陽光の中、一本の葉桜の枝に跨がり、日に焼けるのも構わずにじっと遠くに視線をやる―――ユフィ。
ぼんやりと空に向けられた視線を外すことなく、ユフィはその黒い瞳を見開き、一心に見入っていた。
見上げれば思い出す、少し前の戦い。
3年前の戦いよりも、それは更に厳しいものだった。
3年前は、まだ傍に…手の届きそうな近くにいることができた。共に戦い、お互いを助けてやれた。
でも、今回は。
「あいつ…」
小さく呟く。あいつとはもちろんヴィンセントのことだ。
「きて、くれる…かなぁ」
不安げに呟く、本音。
今回の戦い―――オメガが星に還った後、ヴィンセントは一人あの祠に向かったと聞いた。
ヴィンセントが唯一人愛した…あの人に逢いに。
今回のことで、ユフィは知らなかったヴィンセントの過去を知らされることとなった。
ヴィンセントの中に秘められていたマテリア、3年前には見慣れていたカオスの真実、そして………まだ、ヴィンセントの心にはあの人―――ルクレツィアが間違いなく存在するという、事実。
知りたくなかった。
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