みるふぃーゆ
□想、其処ニ在ラズ
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貴方にとって、
私は。
[想、其処ニ在ラズ]
「こんにちは」
ドアを開けた途端、鼻をつく苦い香りに顔をしかめる事なく苦笑する。
返事が無いのは何時もの事だから、そのまま部屋に上がらせてもらう。
「シカマル、
また換気忘れてるよ」
「……………」
電気もつけず、カーテンを閉め切った部屋で一人煙草を吸っている彼。
手元の写真を見たまま、
瞬きすらしない。
「窓開けるね」
「……眩しいし…」
「ダメ、身体に悪い」
カーテンを開けて窓の鍵を開けると、冷たい風が部屋に入り込んできた。
その冷たさが心地好く、私は息を肺いっぱいに吸い込んでみた。
「…寒い」
「わっ」
と、さっきまで微動だにしなかった彼が気配も無く、本当に突然私を後ろから抱き締める。
その暖かさに私の胸の奥の方が、キュウッと思わず悲鳴を上げた。
(いたい、)
私の肩に顔を埋めたまま動かない彼は、ただ苦しげに呼吸を繰り返し、漏れる声を噛み殺す。
そんな彼の手が振りほどけず、動けない私が見上げた先には、冷たい秋空を二匹の赤とんぼが寄り添うように飛んでいた。
貴方にとって、
都合の良い女でも構わない。
貴方にとって、
私がほんの少しでも必要な存在でいられるなら。
例えそこに、
何の想いが無くても。
(風に吹かれて落ちた写真には、笑顔の彼と彼女が時を止めている)
end.
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ヒロイン→シカ×?なお話でした。
傷付いた人に必要とされると、何だか複雑な時ってあります。人って傷付いてると自然と心地好い方へ寄りかかりますから。
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