短編小説

□これからエクソシスト
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ラビは壁に寄りかかり少年を見据えた。



戦え


とある村の地主の次男として産まれた少年は、その綺麗な容姿ととても優しい性格から、家族はもちろん、村中の人々から愛されていた。少年の笑顔は人々に活気を与え、そこから生まれた人々の幸せは少年の笑顔のもとだった。誰かが泣けば少年も共に泣き、誰かが喜べば共に喜ぶ。人一倍人の気持ちに敏感な少年は喜努哀楽を多くの者と共有した。そうして愛し、愛されながら13歳まで成長した少年が、神に選ばれるのは必然だったのかもしれない。
探索部隊(ファインダー)にエクソシストとしての才能を見い出され、少年が夜明けを知らない戦争に足を踏み入れようと決意した夜に、事件は起こった。
村は大量のAKUMA(アクマ)に襲撃された。
少年は、目の前で、愛している人々が、無惨に倒れていくのを、見た。村は焼け暗い空を赤く照らした。少年は人々を助けようとありとあらゆる事をした。が、無駄だった。少年は探索部隊に連れられ、村を脱出。なんども抵抗し村に戻ろうとしたが探索部隊はそれを阻止し、強制的に黒の教団に連れてこられた。
その間中、少年は愛する人達のために、泣き、叫び、祈っていたという。

それきり、ショックで死んだように茫然と過ごすようになった。物も言わず、何も口にせず、笑わなくなった。



その少年は、窓の前の椅子の上で体育座りで座っていた。ほっそりとした手は足首を掴み、黒く長い髪の毛は結んで左肩にかかっている。足の指はギュッと握られていた。生気を失った蒼い目は外に向けられているものの、外で降っている雨を映してはいなかった。ここからは見えないが、白いパジャマの下の白い肌には生傷が沢山あるに違いない。



ラビは少年に近付き、目の前に立ち、言った。
「悔しくないんさ?」
少年の目はまだ外へ向いている。
「悔しくないか、って聞いてるんさ!」
ラビはしゃがみ込み両手で少年の手をとった。すると支えていた足がストンと椅子の上から落ちた。少年の目がやっと動きラビの目をとらえた。
「悔しくないんさ?」
三度問う。
「大事な人たちが目の前でやられて、何も思わなかったのか?」
ラビは自分の手の中で少年の手が震えるのを感じた。
「悔しい」
今にも消えそうな小さい声だったがラビにはしっかり聞こえた。その小さな唇からは彼の声がでてきた。
「助けられなかった……」
そう言うと目はうるみ、口元が歪んだ。

ラビは立ち上がり少年の頭を優しく叩いて言った。
「助けたかった?でもできなかった」
こくこくと少年が頷く。
「世界中で同じ目にあってる人たちがいる。その人たちは助けたくないか?」
そう言うとラビは少年から手を離し、背を向け扉にむかった。
「お前にはできる力があるんさ。助けることのできる力が。こんなところで泣いてるだけでいいのかな?」
ラビはノブに手をかけ部屋から出ようとした。ぺたぺたと足音がし、背中に体温を感じた。少年が背に顔を埋めて付け服を握っていた。かすれた声で、
「どうすればいいんですか?」
「なにがさ?」
鼻をすすり泣くのを押し殺し、
「助げるにはどうずればいいんでずが?」
ラビは振り向き微笑んだ。そして手をさしのべた。
「俺達と一緒に来るんさ」
扉のさきには沢山の仲間が待っていた。

少年は決意の顔でラビの手をとった。








(今度は助けられるさ)










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