短編小説

□変わったおれ
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夏休みも8月に差し掛かった。7月からの魔可不思議イベント連続遭遇により既に疲労はピークに達していた俺だったが、そろそろ部活にでないと部内での評価が悪くなってしまう(もともとそれほど良くないが)と思い、死にかけの体に鞭打って学校に行くことにした。
よりによって今夏最高気温42.0℃を記録した晴天の真夏日のことだった。


グラウンドに着いて真っ先に俺の元へやって来たのは部長の冬 夏樹だ。部長と言っても男子部員が夏樹と俺だけで、俺が大概ふぬけだったので、自然と部長の席は彼に回ったようなものだった。
「無断欠席10日間、今日は遅刻…」
端正な顔をたいそう歪ませて言葉を続ける。
「なにより、心配かけた。何か言うことは?」
「すいませんでした。」
俺は頭をふかぶかと下げて謝罪した。
「よろしい。」
夏樹は俺の頭を軽く叩いた。こんな会話で済むのは俺と夏樹が小さい頃からの友達だからだ。親友ともいえる。
「今日は罰として、外周10周。制限時間は60分。ほれ今すぐ!細工はするなよ」
夏樹は俺にストップウォッチをわたして、背を向けて練習に戻っていった。
無断欠席についてなにも聞いてこなかったことに、俺はある種の安心と信頼を感じた。彼は分かってくれているのだ。俺のことを。いろいろと。しかし、昨日久しぶりに携帯電話を開いたら、夏樹からの俺を案ずるメールが毎日届いていたのを見付けた。さっきは簡単にて許してくれたが実は滅茶苦茶心配してくれていたのだ。
そう思いながら夏樹の背を見ていてふと、違和感を覚えた。が変わったことはないので、思い違いだと考え目下の課題に集中することにした。
外周は1周約1キロ。体操、ストレッチをしっかりやって命がけで走れば60分で出来るはず…と思い、受け取ったストップウォッチを見る…と既に動いていて約3分経っていることをしめしていた。“細工をするなよ”…この事だったのか。ちくしょう。どうやら今日も本当に命を削りながら走る羽目になりそうだ。
許してはくれたがとても怒っているらしい。


冬夏樹。総勢30人の陸上部の部長。身長170cm弱だが、それでも小柄に見えるのは彼が細身だからか俺が無駄に長身だからか。そんな彼は、実は、全国大会に出場できるほどの凄い選手だったりする。物腰柔らかくおおらか、言えば“良い人”。容姿も綺麗なのでいうことなし。
で、そんなヤツがニコヤかな顔で、俺に怒りをぶつけている。練習終了後のグラウンドの片隅にあるベンチで。
グラウンドの真ん中では女子達がサッカーという女子高生らしからぬスポーツに興じている。混じりたい。
「こら。聞いてるか。」
「はい聞いています夏先生。なので私めはあのサッカーに参加したいのでありますが」
「聞いてないな。この野郎」
はー、と露骨に嫌そうな溜め息を着く夏樹。
「別に、問題事に巻き込まれ易いのは今に始まったことじゃないけどさ。これじゃなんのためにケータイを持たせたかが解らない」
「悪かったって。てかもういい?めちゃ疲れてんだけど、俺」
「疲れてるのにサッカー?言ってること適当だなおい」
また溜め息をつく夏樹。
「あんまり心配かけないでくれよ、お前も」
“お前も”。夏樹には様々な知り合いがいる。それは大企業の社長から、はてや不良まで。なんの因果かしらないが人脈が広いのがこいつの特長だ。それで、こいつの場合とくに仲が良いヤツが学校中退や就職、不良など(これはあくまで珍しいパターン。もっとまともなのはたくさんいる)でなにかと不安要素がでかい。だからなのだろう、俺に必要以上の心配をする。
いうなれば、広く浅く付き合うタイプなのだ。
だから、自分で言うのもなんだが、幼馴染み、親友の俺に特に気にかけるのだと思う。
「大変だったんだから…」
夏樹が言った。俺以上に大変なことがあるのかと言いたくなったがそこは抑えておく。
「なにが?」
「いろいろと」
「いろいろと?」
忘れてるのか…、と非難の眼差しでみられる。
「インターハイ」
……やばい。忘れてた。
応援すると約束してたのだ。
もともと廃部寸前だった陸上部に新入部員を増やそうと、夏樹は自らインターハイに行くことにより部が強いことを示そうとした。積極的な勧誘もし、初めは4人だったのが今では30人で県を誇る強豪にまでのしあがった。─ほぼ女子だけど。
普通だったら男子2人に女子28人じゃ精神的にやっていけないだろう。しかも1人(俺)は部活にあまりでない。それでもやっていけたのは夏樹に性差の意識が薄いからだろう。いっちゃえば女を女と思っていない(言い過ぎか)。
そうは言っても男子部員はほしいので、夏樹は(文字通り)奔走しているわけだが。
俺はそれ全てを含め応援、手助けをすると約束していたのだ(たくさんの女子に囲まれるという下心がなかったわけではないが)


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