短編小説

□変わったおれ
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そんな親友の大事な日に、俺は中年男の茶番劇に付き合わされて北の国を死に物狂で走っていたのだ。
「ごめん…」
おれはこれ以上になく頭を下げた。
こればかりはもう、言い訳のできない最悪なことだった。俺は親友の信頼を、裏切ったのだ。どんなに罵られても足りないくらいだ。一発殴る、いやいっそのことナイフで刺されてもおかしくないぐらいの失態だ。どうりで、女子達の視線が痛いくらいに冷たかったわけだ。
どんな罵詈雑言がとんできても(夏樹はそんな言葉を使うやつではないが)覚悟していたが、いつまでたっても何も起こらない。逆に鼻をすするような音が聞こえてくる。もしかして、泣かしてしまったのか!?いつも、どんなことがあっても優しく気丈に健気であった夏樹を!?頭をあげようとしたら押さえ付けられた。
「そんなに、結果やばかったのか…?」
「グズ、さ、3位だった。」
高校生で三番目の男。
「よかったじゃねぇか」
ちょっと声が上擦る。
「よ、よくないよ」
そうすれと、とうとう夏樹はウワァ〜ンと大きな声で泣き初めてしまった。俺は夏樹の顔を見上げた。
手で目尻を擦り、必死に涙を堪えようとしている。
女子が夏樹の鳴き声を聞いた瞬間にクワッとこちらを向き、まるで瞬歩のように俺らを囲んだ。
竹之内と高橋は夏樹の背を撫でて落ち着かせようと声をかけて、前田と大島は俺を責める。
「あんた!いちも冬君に迷惑かけて!わかってる!?」
「そうだよ!冬君の目標達成のために、応援するんじゃなかったの!」
そうだよ、そんなこと俺が一番わかってる。あまりにもわかりきってることのため、逆に反論できない。わかってるのにできなかったから、本当にふがいない。隣の夏樹は多少落ち着いたのか、グズグズと鼻をすするにとどまっている。
「冬君、競技終わった後まであんたが来るの信じて待ってたのに…」
その言葉には結構俺の中に響いた。
「一緒にいてくれれば、少しは変わったかもしれないのに…」
夏樹の一言も俺の心を揺さぶった。俺を本当に必要としてくれていたからこそ出る、その言葉。
「優勝できそうだったのか?」
そんな言葉かける権利なんかないくせに、聞いてしまう。前田達が睨んでくるが気にしない。夏樹が首を小さく横にふる。
「別に、そういうわけじゃないんだけどさ…、一緒にいてくれればこんなことにならなかったんじゃないかなって思って…」
夏樹は無理に微笑む。
“こんなこと”?。俺がいなかったことかで、夏樹に何か決定的な事を起こしてしまったのだろうか?
「大丈夫?無理してない?」
「相談のるよ!」
女子が横目で俺を睨みながら夏樹に優しい言葉をかける。
「相談のってくれる?」
夏樹が高橋、竹之内、前田、大島、そして最後に俺の顔を順に見て言う。
みんなは口々に勿論だという。俺は何も言えない。ここにきても信頼を寄せてくれる夏樹に言葉がでなかった。夏樹が心配そうに、不安げな表情で、俺の様子を伺う。
「のってくれる?」
今度こそ、親友の期待に答えたいと思った。
「もちろん!」

そして夏樹が口を開く。自分の身に起きた悲劇から助けてもらうために。恐る恐る、まるで真っ暗闇のなかで見つけた小さな光を大事に抱えるような。

「じつわね……」



そこから、俺達6人の本当の夏が始まった。






信じることから始まる、本当に熱い夏の友情アドベンチャー



(俺にできることでも、できないことでも、本当に信頼してくれるお前のためなら、なんでもしよう)


(みんなに貴方に憧れて、この場所にいるの。だからもっと頼ってくれていいんだよ?)










(夏樹少年に振りかかった悲劇とは!?)

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