短編小説

□死んだら終り
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今度こそ、お別れだ。何か言わなければ。そう思う度、彼と過ごした時が蘇る。花火をした、勉強した、喧嘩した、部活をした、合唱コンクールの練習をした。走馬灯のように頭をよぎる。そして口を開こうとした時、彼は背を向け走り去ってしまった。

左を見、右を見、そして後ろを見、前に向き直る。何処にも彼はいなかった。

産まれて初めての恋をした。一回いなくなり、そして帰ってきた。意識はしてないつもりでもいつも、視界のなかに彼を入れていた。
ある日部活がうまくいかなくて、悩んでるところにところに彼は来て、何かあったら相談しろよ、そう声を掛けてくれた。それは彼がみんなに見せる優しさで、私だけの特別ではなかったが、それでも救われた。
…そんな彼が消えてしまう。

これ以上ないくらいの大きな泣き声だった。悲しい悲しい声だった。

そのときだった。後ろからたくさんの足音が聞こえた。そして背を叩かれた。叩いた主はそのまま走り抜けたが、
「まだだ!!」
そう叫んだ。山口だった。他にも、たくさん、クラスメート全員が土手に向かって走り抜けていく。
いつのまにか両隣に、詩織と美保がいた。二人は春の腕を持ち立ち上げる。
「まだ、だよね?」
詩織は言う。
「彼は私たちのために戦うんだよ。最後の雄志をみとどけないと!」
美保は言う。
「僕たちの恩人の門出だよ!見送らないと!」
遅れてきた、小さな体を全力で使いタクが力強く言う。
「ほら!」
詩織が春の腕を引っ張った。

──悲しいのは皆一緒だ。あとはどう受け入れるかだ。皆は彼を暖かく見送ることに決めたのだ。私と違い強い選択をした。その選択を真似しないほど私は馬鹿ではない!

「うん!!」
全員で土手を駆け上がり、目の前の光景を見つめる。そこには大きな光の玉が浮いていた。戦っているコウが怪物を叩くたび、その玉が怪物を飲み込んでいく。怪物が消えていくたびクラスメートの歓声が上がり、応援する声が強くなっていく。
彼はけしてこちらを見なかった。だが、血を流しどんなに攻撃を受けても、彼の顔から笑みが絶えず浮かんでいた。
春は涙を流していた。しかし全力で彼に声援を送った。

最後の一匹になった。コウはそいつを掴み手を上に挙げた。
するとゆっくりとコウは中に浮き、光の玉に近付いていった。

──あの玉に入ったらコウはいなくなってしまう。

どうしたらいいんだろう?すると詩織が背を押して一番前まで春を押し出した。

「いいんだよ、正直な気持で…」

私は詩織の顔を見た。すると回りも静かになり春を見つめていた。まるでお前の役割だ、とでも言うように。
春はうなずいて、光の玉に近付きあるコウに叫んだ。

「待ってるから!あなたのこと!ずっと待ってるから!」

それをきっかけに、みんなもコウに叫んだ。
帰ってこいよ!
元気でな!
また馬鹿しようぜ!

コウは今度は皆の方を向いた。しかし何も言わずただ手を突き出した。
彼の目からは光るものがこぼれていた。
全員で手を突きだした。
まるでそれが再会の印であるかのように。
叶うかどうかわらからない。
しかし、それが彼と私たちの繋がりだ。

ゆっくりと彼は光の中に吸い込まれ、姿を消した。

私たちはもう何もない虚空をひたすら見つめ、いつか果たされるであろう未来の約束に思いを馳せた。





また会う日まで!!














(これが最後の作品ではないのであしからず)

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