短編小説

□力不足
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絶対に勝てる。高層ビル街の上部に浮かぶ3体の小竜を見て杉城はそう確信した。
今までに戦った怪物は数知れず。俺に倒せなかった怪物はいない。俺は最強だ。
杉城の心には恐怖心など一切なく、あるのは己の力への自負心と新たな敵へ立ち向かう高揚感だった。
“心の武器”を解放した杉城は相棒の山下と目配らせをする。俺は強い。自分にそういい聞かせるように呟くと、人に害をなす怪物を倒すために走り出した。







伝説の男






目が覚めたとき最初に目に入ってきたのは白い天井と白いカーテンだった。
「どはっ!?」
驚いて起き上がると、全身に電撃のような痺れる痛みが走った。
「おー。気が付いたかー。思ったよりも早かったなー。」
となりに、やけに背が高く腕の長いスーツ姿の短髪男が立っていた。そいつは遠くにいる誰かに、おーい起きたぞーと呼び掛けながら離れて行った。随分間の抜けたしゃべり方する野郎だった。
辺りのようすを見る限りここはどこかの病室らしかった。しかし病院ではなさそうだ。薬やなんやらが入っている棚や、机や椅子が有る限りが学校の保健室ぽかった。
「やられたのか…」
記憶が朦朧としている。覚えているのは竜の残像と手から落ちる武器。時間として三分ももたなかっただろう。それほどに竜が強かったのか、俺達が弱かったのか…。
隣のベットには山下が眠っていた。
「勝手な事してくれたよね、ホントに」
子ども特有の高い声がかけられた。しかし内容はけっこうどぎつい。
「A+(エープラス)級の怪物に向かうに対して、周囲への避難勧告無し、戦闘前における上官との指示応答の形跡無し、極めつけは“敗北”ときた。君たちが倒れているのを見た時ヒヤヒヤしたよ」
そう言ってきたのはスーツ野郎に連れられた子どもだった。スーツ野郎より頭2つ分ぐらい小さい、160位だろうか、眼鏡をかけ白衣を着ていた。手にある報告書らしき物を見ていて俺には目もくれない。
「多少の無理も“討伐”できたなら通るけどねえ、さすがにこれは…。どう上に報告したものか…、大和ならどうする?」
隣にいるスーツ野郎に書類を渡す。
「あぁ、めんどくさいから初めからいなかったことにする」
「でも、目撃者もいるし、医務室使っちゃったから隠しきれないよ」
「じゃ、お前の権限で処分しましたって言って上に回さなければ?」
「それ、いいね」
そう言ってチビがこちらをみる。
「そういうことだからどんな処罰がいい?」
こいつら適当だ!ていうか何者なんだ!
「おまえら一体…!?」
そう口を開いた瞬間に何処かの扉がバーンと力強く開け放たれてドタドタと数人走り込んで来る音が聞こえた。
「先輩!今日戦いに行ったて本当ですか!」
「お怪我ありませんか!」
「もし椿さんになにかあったら私…」
入り込んできた女子がチビを取り囲み口々に質問を浴びせる。チビは困ったように両手を前にだし壁をつくる。
「ここは保健室だから、静かに…」
なんか、まとはずれな事を言っている。
「この子達外に連れてくから、あとよろしくね」
そう苦笑しながらスーツ野郎に頼むと部屋から女子達を追い出していなくなった。

「というわけだな」
「はっ!意味わからねぇ!?ていうかテメェは誰だ!」
「わかってないねぇ、君、口のききかた。僕は彼みたいに優しくないのだよ」
そうスーツ野郎は嫌な笑みを浮かべる。そしてスーツの胸についているバッチを指で強調する。そのバッチは学生自治団の上位の者しかつけられない桜の紋様があしらってある。
「決定。君たちは自治団員としての資格を剥奪。ということで資格証提出して」
「はぁ!?ふざけんな!テメェは俺の功績を知らないからそんなこと言えるんだ!おれが抜けると穴が大きいぞ」
「ふむ、では例えば?」
「この一年で討伐数八十近く。しかも先月の西ノ森攻略は俺がいたからできたんだ」
「そこそこ腕は立つようだな。残念だ」
そして手を差し出す。証明書を出せというのだろう。
「お、おい!話聞いてなかったのかよ!俺はまだ使い道がある!」
「いや、規律違反をしたにもかからわず実績を残さないんじゃ、ただの雑魚だ、隊の雰囲気が悪くなる、去れ」
返す言葉がなかった。このままでは今までの努力が無駄になってしまう。こうなったら下手にでるしかない。気に食わないが。
「頼む。俺を自治団に残してくれ。夢があるんだ」
「ほう」
そこでスーツの男が始めて俺に興味を持った、感じがした。
「少年の夢を潰すのも気が引けるな。言ってみろ」
「創始者に会いたいんだ。そのために強くなって地位がほしい」
スーツの男がニヤッと笑った。なんとなくシニカルな感じだった。
「夢が叶ったな」
衝撃の一言だった。
「まさかお前が…」
「ちがう。さっきのちっこいのだ」
墓穴を掘った。
「さあ、証明証だしてもらおうか」






ツヅク


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