短編小説

□死闘
1ページ/2ページ



片腕のエクソシストがAKUMA(アクマ)の群れに飛びかかった。

たがためにたたかう


リナリーは彼が一人でレベル3のアクマに立ち向かうのをただ見ているだけしかできなかった。傷ついた自分をただ「守る」と言って単身飛び出した彼を止めることができなかった。そんなこと、できるはずなかった。

同い年なのに、目線は同じ。寡黙で何を考えているかわからない。純粋なエクソシストとしての力ならリナリーのほうが強かった。

彼も傷ついている。なのに立ち上がり、リナリーのために死地に向かった。彼は決して弱くなんかなかった。仲間のために戦える立派な兵士だったのだ。

立ち塞がるように一体のアクマが現れる。彼は一本しかない腕で、巨大な剣を振りかざす。対してアクマは握り拳でその太刀筋を受け止める。圧倒的なパワー負けだった。剣が弾き飛ばされる勢いに彼は引っ張られ、30メートルほど目にも止まらぬ速さで吹っ飛んでいき地面をころげた。その懐にアクマは入り込み拳を叩き込む。ぐはっという悲鳴と共に地面にクレーターができる。即座に剣を放つが、もうアクマは10メートルほど後ろに退いている。
即座に体制を立て直し、一気にアクマとの距離を縮める。突進のように突きだされた渾身の一撃。ギイィィィンという強烈な音が鳴りそのままアクマの腹を突き刺さしまっぷたつにする、はずだった。だがアクマは微動だにしない。装甲の厚さ、強度だけで攻撃を防いだ。
「この程度か、エクソシスト」
アクマはそう言い放つと腹で止まっている剣を指二本で掴み中に放り投げる。なすすべない彼にアクマは手の平を向け、
「つまらん」
高圧熱線を発射した。手の平から繰り出された熱線は彼の全身を焼き付くした。どしゃっ、と地面に墜ちた彼の体は煙がたちこめ、ピクリとも動かなくなった。

──予想外ではなかった。むしろ良くやった方だ。自分でさえ、レベル3には命かながら勝利したのに、ましてや彼では…。でも期待はしていた。彼が未知なる力を発揮して全てのアクマに勝利し、私の暗く染まった世界に手をさしのべてくれるのではないかと…。
リナリーは泣きそうになるのを必死に堪え、唇を噛み、倒れている彼を見つめた。
アクマが体をこちらに向ける。次はお前の番だとでも言うかのように手の平をむける。
このままでは熱線でやられてしまう。
立ち向かなければ殺されてしまう。でも、できなかった。彼の「守る」という短い一言に頼りきり安心していた。それは戦わなくてもいいという信頼。彼の言葉はそれほどに優しく、強かった。

「死ねエクソシスト」

その瞬間、アクマの体が動きを止めた。頭には剣が食い込んでいた。

「こっちだよ(守るから)」

彼の剣に埋め込まれているイノセンスが輝きだす。アクマが振り返る前に剣で切り上げる。
「ぐぅ…」
アクマが中に放り出されたところに、何千という長剣の雨が降り注ぐ。勢い良く降り注ぐ剣は着実にアクマにダメージを与える。
彼のイノセンスの能力。「剣の舞(ツルギノマイ)」。
アクマに降り注ぐ剣は地面に着く前にUターンをし、まだ中に浮くアクマに背から暫撃を加える。そこに彼がとびかかる。イノセンスの力で全身の筋力を数倍まで引き上げる。まず一撃。叩き込む。手を離し、飛んでいる剣を掴み、二撃目。三本目をつかい、三撃目。四撃。五撃、六、七、八…。空中でものの三秒の間に繰り広げられた攻撃は30発。スタッと地面に降りた彼が見上げる先には30もの剣でズタボロにされたアクマの残骸があった。そして残骸が爆発する。
彼は落ちてきた剣を手を振り上げキャッチした。
──彼はレベル3に勝利した。
しかし先は長い。苦労して倒したレベル3がまだうじゃうじゃいるのだ。これを一人で倒すのは不可能だ。死に向かうものだった。しかし彼は「死」を目の前にして恐れなかった。なぜなら、

彼はリナリーに微笑みかけた。

「守るから」

彼は一本の剣を手に、何千本もの剣を従え、大切なものを背に、戦う。


──青年は仲間のためにたたかう








(片腕のエクソシスト「舞う武人」が誕生した瞬間だった)














(リナリーは生き残る、ということは「彼」も…)

次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ