短編小説

□戦火舞散る
1ページ/2ページ




「戦争は悲しい」
時人は言った。思ったことがポツリとでた独り言だった。
「そうだな」
思いがけない返事に時人は驚き、銃を構えながら振り向いた。
「俺だよ」
そこにいたのは同じ部隊の孝雪だった。入軍時期こそ同じだが、無口を貫いている時人とは接点が皆無だった。
「なんのようだ」
「あぁまったく、つれないな」
冷たく言い切る時人に苦笑しながらも、飲むかと液体の入ったコップを差し出す。時人は手をふり断わった。孝雪は時人の隣に座りこんだ。
「どう思うよ、この戦況」
孝雪が口を開く。しばらく沈黙が続き時人がおもむろに言葉をつむぐ。
「泥沼の最悪だ。」
「違いねぇ!それ以上わかりやすく言い表すものはねぇな!」
孝雪は豪快に笑う。しかし急に笑い声を潜め時人を見つめる。時人の視線は廃虚のビルとビルの間の先にある、暗闇で見えないが、敵陣をにらみつけていた。この膠着状態時の休憩時間に最前線で見張りをする人は時人ぐらいだった。
孝雪は躊躇いながら本題に移る。
「お前さ、もう少し味方に馴染めよ」
時人の視線が孝雪に向かう。
「皆お前のこと評価してるぜ。銃の扱いの技術の高さ、敵陣に突っ込む度胸、お前に助けられて命を拾ったやつはたくさんいる」
俺もそうだぜ、と孝雪はカラカラ笑う。
「だから、尚更、心配になるんだ。なにを考えてるかわからないと」
「だからなんだ」
「怖いんだよ」
孝雪は直球だった。
「あちこちに死体がある、実弾の入った銃、毎日死と隣合わせ、薄汚れた身なり。…日々消耗戦だ」
肉体的にも精神的にも。
「なのに、なぜ隣にいるやつまで気をつけなければならない?」
射るような孝雪の視線が時人にに向かう。時人は地面に目を泳がせ困った顔をする。孝雪はこんな時人の表情を見るのは始めてだった。
「すまない」
口からでたのは謝罪だった。
「幼い時から人付き合いが苦手で…」
その言葉に孝雪が目を丸くする。
「その、つい、不遜な態度を…」
孝雪とうとう堪えきれず吹き出した。
「じゃあ、なにか!ただの人見知りだってか!?」
ガッハッハッハ、と一段と豪快な笑い声を響かせる。時人は顔を赤くし恥ずかしそうに下を向く。
「しゃあねえな!」
そう言うと孝雪は時人の腕をとり強引に立ち上がらせる。
「俺が皆に紹介してやるよ!そして問題解決、だ!」
おっとその前に、と孝雪が時人にその力強い手を差し出し握手を求める。
「俺は、三島孝雪だ。よろしくな」
時人は照れたようにその華奢な手をだし握り返す。
「輪島時人」
そして、徴兵されてから約半年ぶりの笑顔をみせた。

その夜に、その小分隊では新しい仲間を歓迎する喜びの歓声があがった。






閑話休題





(絶対みんなで生きて帰ろう)






次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ