短編小説

□眠むれる花畑の将軍
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輝き満開に咲き誇る花畑の真ん中にその小さな家はあった。道案内の少女に連れられ詩織と大輔はその家に入った。まるで図書館のような本棚に本がぎっしり詰まっており、それでも入りきらない大量の本が山積みになっている。その本に埋もれるようにして純白のベットが窓際にあり、そこに目的の人物はいた。彼は起き上がり新聞を読んでいた。二人が入ってきたのに気付くと新聞をたたみ眼鏡を取ってこちらを見た。

「ようこそ我が庭へ」






青年の傷跡





「つまり、政府打倒のために革命軍に参加し戦ってほしいと。…私に」
「そうだ。時人。三年前の戦争を体験しているお前だったら軍の士気も上がる」
詩織と大輔は適当な椅子に座り事の一連を話した。道案内をしてくれた少女が煎れてくれたコーヒーをありがたく頂き一口含む。ブラックは苦かった。少女はお盆を両手で胸に抱え本棚の前に立った。
「貴方の力が必要なの。助けてくれないかしら」
時人が小さくため息をつく。
「私はもう戦場に立つ気はないよ、詩織さん。いくら頼まれてもそこは譲りたくない」
「今の政治の腐敗は酷い。武力による弾圧に重税。国民は苦しむばかりだ」
「名ばかりの民主主義なんていらないのよ。必要なのは人権と平和。それはあなたも思うでしょう」
「だからって革命戦争には繋がらない。失敗したらどうする?皇帝の暴挙が悪化するだけだぞ」
「だからあなたの力が欲しいの。時人君。…いや、輪島将軍」
「もしお前が革命に参加してくれたら、少なくても同志は三倍も四倍も膨れ上がる。そうすれば政府軍をも上回る」
「私を巻き込まないでくれ。今の生活にとても満足しているんだ。」
そう言われると返す言葉がなくなってしまう。気まずい沈黙が流れた。少女が窓を開けた。心地よい風が優しく吹き込んできて、花びらがとんでくる。
「…みんな元気か」
沈黙を破り時人が口を開いた。
「あぁ、みんな変わらずやってるよ」
「中学の頃以来よね、こうやって話すのも」
三人は懐かしむ口調だった。
「驚いたよ。お前が戦争の英雄つってさ、テレビ写ってんだから。大学一年の時だったか?」
「あぁ、高校になってすぐウチの学校の生徒だけ徴兵されたんだ。全寮制だったしな」
苦々しそうに言葉を吐き出す。
「何人くらいいたの?」
「150人くらいさ。戻ってきたときは半分もいなかったがな」
はっと詩織が息を飲む。
「ごめんなさい」
辛そうに言う。同級生や先輩が沢山死んだのだ。自分だったら耐えられない。
「気にしてないさ。私は生きている」
弱々しく微笑む。
「岳里はちゃんとやってるか?」
「あぁ、妹さんだろ?昔は辛そうだったが彼氏が出来てからうまくやってるよ」
「…そうか」
「お、意外だ。結構気にすると思ったがな」
「私はそんなキャラじゃないよ。それに…妹の事を言えた立場じゃない」
そう言って少女を見る。
「紹介がまだだったな」
おいでと時人が招くと少女が近寄ってきた。
「妻のヒカルだ。今年で二十歳になる。彼女のおかげで色々助かっているよ」
ヒカルは照れた顔をして深々とお辞儀をする。大輔はヒューと口笛を吹く。
「じゃあ、私たちの学年で一番最初じゃない!おめでとう!」
「あるがとうございます」
ヒカルがここに来て始めて口を開いた。
「時人、愛しの沙織ちゃんはどうした!?」
「おまっ!?ここでそれは言う必要ないだろう!」
「是非教えてください。時人さんは昔の自分のことをなかなかお話にならないので」
積極的な子だった。


そうして四人は昔話に花を咲かせた。恋愛や部活に始まり、当時の先生の悪口に至り、友達が今何をしているかとか。未来の日本のことまで。華やかに話が行われた。


「それじゃ、元気でな」
詩織と大輔が立ち上がり帰る仕草を見せた。時人もベットから立ち上がり家先まで見送る。そして少し逡巡した後口を開く。
「今度、三島との密会の機会を設けてやろう」
二人の顔は一瞬理解不能な表情になり、意味がわかるととても驚いた表情になる。
「三島軍務大臣か!?」
「そうだ。丸め込むことができれば革命はこれ以上になく上手くいく」
「しかし…」
「大丈夫だ。基本的に思想はお前達と同じだ。民主主義に軍はいらないと思っている」
ありがとう、二人は感謝の言葉をつげる。
「今度会うときは日本が変わった時だ」
「楽しみにしている」
「ヒカルちゃん。またね」
そうして二人は夕陽で赤く染まる花畑を帰っていった。







(これは日本民主革命戦争が成功する一年前、日本に平和をもたらしたと言われる“天帝”輪島時人将軍が亡くなる三年前の密会のことだった)





(“今度”はもうないとおもう。いつか、オリジナルの世界観紹介をまとめて掲載します)


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