短編小説

□たまご
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東京湾の上空に突如現れたのは巨大なタマゴだった。



選ばれし子ども達
─2008.8/1計画─




夜中だというのに多くの人が東京湾沿岸、高いマンションやビルからそのタマゴを見るために起きていた。いつもより一層熱のこもった東京の街の人々は、これからタマゴによりもたらされるだろう“なにか”に期待や恐れを抱き、それを見つめていた。
近くで謎の物体を見ようと多くの子ども達が東京湾に集まるなか、
「とうとう来たか」
ゴーグルをつけた青年が隣にいる金髪の青年に話しかけた。その表情には焦りや戸惑いはなく、あるのは期待が少し、残念さが大半。
「僕たちの出番はなしだね」
「今回は、だろ」
「だといいね」
なんだよ、と文句を言いつつ少し安心した表情をみせる。
「もう新しい時代の波が来てる、か」
「爺臭いよ、大輔君」
ウッセー!!そう叫ぶ大輔の声はお台場の夜に反響して消えていった。


同時刻、某所のパソコン室。
「昔は君もこの場所にいたんだろ?」
インテリっぽい青年がパソコンに映る画面を指差し、それを操作している同学年の女子に話しかける。
「そーよ。私たちに感謝しなさい」
「感謝って…」
そう青年は苦笑する。彼の恋人とその友達の、今隣にいる彼女が話してくれる冒険の数々は彼を十二分に魅了した。彼は小さい頃から冒険に憧れていたからだ。だが、憧れと妬みは紙一重。自分がしたい体験を他の人がしているという事実を素直には受け止められなかった。
「今回はいいのかい?」
少し皮肉が込められる。
「いいのよ」
即答だった。
「私たちは最後の砦だもの」
自信満々に答えられると返す言葉がみつからない。
「いいから早く手伝って」
青年は気付いたように隣のパソコンを操作する。
「しっかし、いつみても解らないプログラムだ。何に使うんだい?」
「秘密よ、ヒ・ミ・ツ!さあ、迷える子羊ちゃんたち!京ちゃんが力を貸すんだから頑張りなさいよ!」
そう言って力強くエンターキーを押すとプログラムが起動する。いいわいいわ〜と一人テンションが高くなっていく京を横目に、
「せめて八神か一乗寺がいてくれたら…」
とすねたようにぼやいた。

その八神と一乗寺は、
「渋滞だなんて、ついてないな」
タクシーに乗っていた。渋滞の原因は信号機トラブル。それが一斉にいろんな所で起きているからたまったものではない。
隣でそわそわしている少女をみて一乗寺は苦笑する。
「そんなに彼氏さんに早く会いたいのかい?」
八神少女はプイと横を向く。
「京さんだから良いけど、女の人と一緒だなんて」
「あぁ、嫉妬かい?」
そう言うと顔を真っ赤にする。うぶだな…、なんて一乗寺は考える。そして窓の外に目を向ける。そこにはタマゴが浮かんでいる。6年前のことが目に浮かぶ。あの時は大輔と一緒に走ったんだっけ…。
「八神さん、ここからは走って行かないかい?」
「え?」
そう言うと、一乗寺は返事も聞かず料金を払い彼女を車の外へ追い出す。
「あの頃を少し思いだそうよ」
一乗寺は八神ヒカリにそう笑いかける。我ながら少しキザなセリフだった。
「一乗寺君なんだか変わったわ」
少し強引になったと彼女は微笑む。
「誰に似たのかしら」
大輔君かな?と言う。
「それは嫌だな」
ついつい本音がでてしまい、二人して笑いながら友達のもとへ駆けることとなった。


そんな笑っている二人の横を短髪と黒髪の二人の少年が走り抜ける。
「タマゴが孵るまであと13分!!どこまでいくんだよ!」
「もう少し先!いやあともうすぐ!」
二人で携帯電話を片手に、汗びっしょりで駆け抜ける。
汗を拭う時間も惜しいぐらいだった。
「あと5分!」
「大丈夫!着いた!」
そこは光が丘の団地だった。黒髪の少年は迷わず一つの号棟に入っていき、エレベーターに乗る。
「おっおい…」
短髪少年が不安そうについてゆく。エレベーターは9階にとまった。黒髪はおりて部屋を一つずつ確認していき、ある部屋で止まった。
「ここだ…」
そこは表札がかかっておらず今は誰も住んでいないことがわかる。ドアノブを回すと鍵が開いていて、黒髪は迷わず入る。
家の中は家具などが一切なくがらんどうとしていた。黒髪の少年の目的の物は書斎にあった。
「パソコン…?」
短髪は不思議そうに呟く。
「うん。全ては此所から始まったんだ。きっと今回だって」
希望に満ちた表情で黒髪の少年はパソコンをみつめる。
「きっと、ゲートがひらくはず」
その瞬間、パソコンのディスプレイが点滅して電源がついた。
「うわっ」
まばゆい光が発せられ書斎が真っ白になる。驚きで二人は思わず目を瞑る。光が止み二人が恐る恐る目を開くと、そこにあったのは、

「「たまご…!?」」

二つのデジタマだった。








(今、冒険が進化する)






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