短編

□いつか
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「伊作〜保健委員の仕事手伝いに来たよー!」


「やぁユメ、とか言っていつも通り掃除当番とかサボリに来たのかい?」


掃除当番などが嫌いなユメは
決まって保健委員の手伝いだのと理由を付け
医務室にサボリに来る


「もー流石にお見通しかぁ
まぁ不運ながらに私の暇潰しの相手にでもなってよ!」


ねっ、と笑顔で医務室のドアを閉める

そんな台詞に伊作は頬をポリポリとかいた

そしてユメはいつものように
何の迷いもなく病人用のベッドに横たわる


「暇潰しの相手とか言われてもなぁ‥
キミはいつもそうやってすぐに寝ちゃうじゃないかぁ」


伊作は眉を八の字にしながら
背を向けて横たわっているユメに話しかける


「えぇ〜…?
寝ないよ〜寝ないってぇ〜…」


今にも寝そうな声を出しながら寝返りをうつ

そんな光景に伊作は思わず鼓動が速まるのがわかった

たかがそんな行動一つで
胸が高鳴るのはきっと


彼女の事を好いているからであろう



思いを伝えるチャンスはいくらでもあった

今だって医務室に二人きり



ただ

言う勇気がなかった


これほど好きなのに

言うのが怖かった


この関係が壊れるのが怖かった

ユメを困らせるのも嫌だった





いつの間にかユメの寝息が規則正しく聞こえてきた


「ユメ〜?寝ちゃった?」


返事が返って来ないとわかっていながらも
彼女の名前を読んだ



物音をたてずに彼女に近寄り
ソッと髪に触れる




「ねぇユメ…」


呼びかけているのか
独り言なのか

わからないぐらいで呟く



「ぅ…ん…?……」


まだ微かに意識はあるのか

微妙ではあるが反応を見せた


それに対し一瞬肩がビクリとなった



しかし暫くするとまた彼女から寝息が聞こえてきた




そんな彼女が可愛いな、なんて思いながら
くすりと微笑む




今なら言える気がする






「ねぇユメ…

知ってた?

僕がキミのことを好きだってこと」




彼女は睡眠中なわけで

聞いているわけがないとわかりつつも

気恥ずかしくなり


勝手に頬を赤く染め
思わずうつむいた




「…ん…‥ぇ‥?…なに…?」



頭上から聞こえた声に驚き

勢いよく頭をあげると

ユメがまだしっかりとしない意識の状態で伊作を見ていた


先程の発言を聞かれたんじゃないかと
さらに顔を赤くさせ
体が硬直した




「えっ…いやっあのっ…そのっ」


言い訳をしようとするが恥ずかしさ故に言葉にならない



「‥なに?……イチゴ狩りがなんだって…?」


「いやそんな話はしてないよっ」


良かった、聞かれてない
ホッと胸をなでおろす


まだ寝ぼけているユメは
半目で首を傾げる



「ごめんね起こしちゃって
まだ寝てて良いよ‥おやすみ」


「‥ん〜……」


言われるまでもなく
ユメは再度眠りにつこうと
頭を枕に沈めた





いつかきちんと言えるように

頑張ろう








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