短編

□無意識
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不破→夢主/友人
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「雷蔵、大好きだよ」

ユメは雷蔵を強く抱きしめ、耳元で囁く
それに答えるように、雷蔵も強く強く抱きしめる

そして、ユメにも聞こえないぐらい、小さな声で呟く

「愛してる」

どちらともなく、お互いに唇を寄せ合い、深く重ねる
舌を絡ませあううちに、だんだんと二人の呼吸が乱れはじめる

続きをしても、いいかい?
そう問おうとした時、雷蔵よりも先にユメが口を開いた

 雷蔵、気持ちいいこと、しよ?

その発言に、雷蔵は理性をすっかり手放し
本能のおもむくままに――


雷蔵はハッと目を開けると、目の前に見慣れた天井が見えた

「あ・・れ!? ユメ? ・・ユメ!?」

勢いよく体を起こし、周りを見渡すが、紛れもなく自分の部屋だった
一緒にいたはずのユメはいない
いるのは、隣で小さくイビキをかいて寝ている、鉢屋三郎だけだった

「まさか……」

全て夢だと気づくのに、時間はかからなかった

そして目が覚めた自分を恨んだ、同時に、疑問と罪悪感が生まれる
友達のはずのユメとあんなことを

『僕はユメちゃんが好きなのか!? いやいや! 彼女は昔からずっと友達だ! だいたい僕が好きだとしても、向こうはこっちをなんとも思っちゃいない!』

『いや! いやいや!僕だってなんとも思っちゃいない! そう、だって友達なんだから!』

『でもあんな夢を見たのは、好きだからか!? 確かに好きだけど! これはやましい気持ちではっ!』

雷蔵は一人、頭の中で自問自答を繰り返す
しばらくすると、隣で寝ていた三郎がモゾモゾと動き出した

「あっ・・三郎、お、おはよう」

フと現実に戻り、視線を三郎にやる

まだ寝ぼけて、意識がハッキリとしていないのか
半開きの目でぼんやりと雷蔵を見る

そんな顔も雷蔵のままの顔で、なんだか間抜けな顔だな、と自分で思ってしまった

「あぁ・・おはよう」

今にもまた眠りにつきそうな三郎に、考えるよりも先に問いかける

「ユメのこと、どう思ってる?」

まだ寝ぼけたままの三郎は、ゆっくりと瞬きをして、ゆっくりと答えた

「えー・・好きだけど」

質問の意味もわからず答えているのか、わかった上での答えなのか

どちらだとしても、雷蔵はあまりいい気分にはならなかった

休み時間、雷蔵はユメを探した

「あ!いたいたっ……、!?」

廊下を歩くユメの隣には、三郎もいた

 なんで三郎と一緒にいるんだ

「おぉ雷蔵」

「あ、雷蔵ーこんにちはー」

「やぁ」

あくまでも目線はユメで、返事はユメにしたものだった
そのまま自然に、三人は廊下を歩き出した

ユメを間に挟んで

なんだか今日の自分はおかしい、自分でそう思わずにはいられなかった

ユメが三郎と一緒にいることも、笑わそうと面白いことを言う三郎も
三郎の発言で笑う#name1#も、三郎に向けられる視線も
ユメに対する三郎の気持ちも、二人をみて良く思わない自分も

全てが雷蔵の気分を良くはしなかった

『二人とも大切な友達なのに』

自分とだけ話してほしい、独占欲まで生まれてしまっていた

しかし、いざユメが雷蔵に話をふっても
今朝の夢を思い出してしまい、うまく返事もできず
しどろもどろで、心配な顔をされる一方で

そして三郎が雷蔵に話しかけても
なんだか素っ気無く返事をしてしまい、後々後悔し申し訳なくて仕方がなくなる

でもそんな事を気にしない三郎は
変な奴、と軽く笑っていた

今の自分は、この二人と一緒にいないほうがよさそうだ
と、二人から離れようと考えた
だが、二人きりにさせるわけにいかないと、離れることもできなかった

途中で、ユメがじゃぁここで、と去って行った

ホッとした反面、寂しくてたまらなかった
小さくなるユメの後姿を見つめ続ける

「なんだか今日の雷蔵は変だな、どうかしたか?」

心の中を見透かされたように思えた

「僕も自分が、変だと思っているんだ」

気の抜けた発言に、思わず三郎はふきだす

「ん〜、私の予想じゃ……」

ニヤッと怪しい笑みを浮かべ、顎に手をあてがいながら三郎は言う

ユメに恋をしたのか?」

「ちっ・・ちがっ!ユメはただの友達だから!」

「私とユメが話してる間、雷蔵、お前凄い不愉快そうな顔してたの、気付いてたか?」

ハッとした、そんな顔をしていたなんて

「前々から、お前も好きなんじゃないかとは思ってたけど、今日はよりライバル心むき出しだな」

「え、そんなこと‥」ない、本当にそんなことないか?

思い返せば、確かに前から、ユメと話している者が気にくわない
と思った時は何度もあった気がする

ただ大切な友達だから――

しかし今日は、あんな夢を見たばかりに、変に意識をしてしまっただけ

「手加減はしないからなー」

そう言うと三郎は、悪戯っぽい表情を浮かべ歩いて行った
雷蔵はただ、今の自分の気持ちがわからず立ち尽くした

もうすぐ一日が終わりを告げる頃

「あ、雷蔵ー」

背後から声をかけられるが、振り返らなくてもわかる
この愛おしい声の主はユメだ
しかし勿論振り返る、もう一度顔が見れて、嬉しくてたまらない

こう思うのも、大切な友達だから、だと思っていた

「ユメ・・」

愛しい人の名前を囁く
ん?と下から雷蔵を見上げる瞳
さらに愛しさで、胸がしめつけられた

今すぐにでも抱きしめてしまいたい
強く、強く

あぁ、僕、ユメに恋をしているんだ

一人の女の子として、愛しているんだ

自分の心に気付いたら、もう頭はユメでいっぱい
愛おしい気持ちがあふれて、体中がユメを求めた

頭で考えるよりも先に、勝手に動いた腕はユメを抱きしめた





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