短編

□本物の人間
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夜這い/恋仲?
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静まり返った深夜のことだった、それは突然のこと
くの一教室のユメの、一人部屋でそれは起きた

物音もせずに、急に身動きがとれなくなった
何者かが上に乗っているのか

これは、俗に言う”金縛り”というものか

体は動かないのに、何故か目だけは、開けられるような気がする

しかし、開けられなかった
恐怖で絶対に開けたくなかった

ミシッ、と畳がきしむ、息苦しい

そして、小さく名前を呼ばれた気がした

ご先祖様か、亡くなった身内だろうか
それとも何かの霊か

ユメは頭の中で必死にお経を唱えた
だが消える気配はない

ひんやりと冷たい空気が肌に触れた
まるで夜着の前が開いたような

そしてすぐに冷たい手が胸元におりてきた

――なんて助平な霊なんだっ
きっと生前に存分に異性と関われなかったのね、可哀想に
だからといって、私にはやめて

などと考えているうちに、その手は直に胸を掴んでいた
手の感触は、本物と変わらないぐらい、ハッキリとしている

下から上に外へ、だんだんと手の動きが大きくなってきた


  おかしいな


いつの間にか恐怖は疑問にかわっていて、意を決して、目を開けた


一瞬は辺り一面真っ暗だった
だんだんと目が慣れてくると、ものの姿形が影になって見えてきた

明らか、上には誰かが乗っている

霊じゃない、正体は


「三郎‥」

寝ているとばかり思っていたのか、驚き一瞬手の動きが止まった

「えっ‥イヤだなぁ、僕は不破雷蔵だよ」

顔はハッキリと見えないが、声は雷蔵のものだった
影の雰囲気も雷蔵であろう形

だがユメには、雷蔵じゃない自信がある

「自分から名乗るって‥それに雷蔵は夜這いみたいなことしないと思うよ」

そして、素直に自分が鉢屋三郎であると認めた
その様子からすると、最初から隠すつもりはなかったようだ

未だ胸に置かれている三郎の手を掴み、退けるため上に力を入れた
わりとすんなり離れた手は、脇腹の隣に置かれた

「誰がいい?」
「何が?」
「夜這いされるなら、誰がいい?」
「何その質問‥誰もいやだよ」

だいぶハッキリと見えてきて、三郎の表情もわかるようになった

「立花先輩?善法寺先輩?土井先生とか?」

三郎は次々と、人気どころの名前をあげていった
それと同時に、名前の通りの顔に変わっていく

確かに皆人気でモテるかもしれない
でも、されたい、とは思えない

「しいて言えば、本物の人間がいい」

ユメの発言に、雷蔵の顔に戻った三郎は
はぁ?今にも言いそうな表情をしていた

「そこは、三郎がいい、って言ってくれるものだろ」

ユメはくすっと笑う

「今の気持ちは、本物の人間なら安心、だよ」

三郎は意味がわからない、といった表情

「でもそれって、私も含まれてるよな」
「そうだね‥三郎が本物の人間ならね」

さっきまでの恐怖も消えて
正体が三郎だったことへの安心感で、睡魔が襲う

さらなる安心感を求め、ソッと三郎の首に腕をまわし
弱々しく自分に引き寄せる
それに合わせて、三郎もユメを抱きしめる

ユメの隣に寝転がり、力強く再度抱きしめ直す

「本物の人間で‥よかった……」

ユメは小さくそう呟くと、ゆっくりと目を閉じた

夜着が脱がされたことも気にせずに、眠りについた





2009.3.19

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