男装五年総愛長編

□補習の後 の段
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/鉢屋



放課後
空は橙色にかわり、夕日が目にしみる

そんな中、夢介はただ1人、校庭に座り込む

紺色の忍装束は薄汚れていた


立つ力もないが、立とうとしても筋肉が悲鳴をあげる
体が自由に動かない



『くの一と忍たまは‥やっぱり全く違うなぁ』


夢介は前の学校で、くのたまとして忍びを学んでいた
クラスでもそれなりに優秀な方で、忍たまとして過ごすと決めた時も
案外上手くやっていけるだろう、と過信していた

だが実際は、学問は問題ないものの
実技ばかりは、男子のような体力も筋力もなく
おいていかれるばかりだった

そのため、実技の授業の後は、大抵居残りを言い渡され
今も遅くまで補習を受けていた


夢介が女であると知っている木下先生だが
他の生徒から見ても、体力の違いがあるため
バレないためにも、きちんと補習を出す、先生なりの気遣いでもあった



「よう、補習大好き夢介、元気にやってるか?」


背後からの嫌味な発言に、わざとムッとして顔を向ける

いつも意地悪く絡んでくる奴は決まっていた


「おう三郎、もう終わったよ」


鉢屋三郎だ

いたずらな表情を浮かべ、相変わらず憎たらしいことを言ってくる

「おお、早いんだな、夜中までやるのかと思った」


それに対して、夢介は何も答えない
言葉のかわりに、べっと舌を出す

冗談半分の怒ってるふり

鉢屋が笑い出すと、夢介もつられて笑う


鉢屋とのかかわり方を、少しだけ理解してきた
イタズラで、人をからかうのが好きなだけで
なにかと実技で置いてけぼりを食らう夢介を、気にかけてくれることも多い


突然、体育座りのように座っている夢介の背中に、鉢屋が腰かける

「ぐえっ‥!?」


重みで夢介の体は前に倒れ、前屈の形になった


「うわっお前柔軟凄いんだな、きもちわるっ」


「気持ち悪いは余計だっ‥!
いいから、どけぇーっ‥苦しいっ!」

いかにも苦しそうな声で鉢屋に訴える

鉢屋は自分の腹を、夢介の背中にくっつけるように体勢を変えた

「なっ‥なにするんだよ‥重いってば……!」

鉢屋はさらに、自分の体重以上に力を加え、夢介を押しつける

「なっ、な‥なんだよー!
ちょっ‥と、苦しいっ……三郎!」

「お〜すごい、お前体力とか、力はないみたいだけど、体は柔らかいんだな」


同時に、鉢屋は口にはしないが思っていた

男のくせに、貧弱
肩幅も背中も狭い、腰も細い

体に筋肉が全然ついていないようだ、と


そんな事を考えていたら、自分でも気づかないうちに
夢介の体を必要以上に触っていた


「さ‥三郎っ!やめっ‥!」


わき腹近くにある鉢屋の手がくすぐったいのか
笑って体が震えている

夢介のあまりにも男らしくない体つきに驚き、少し力が抜ける

その瞬間を逃さず、夢介が体を勢いよく起こし
素早く鉢屋のほうに向き直る


苦しさとくすぐったさで、夢介はかすかに涙目だった
もうなんなんだよー、と文句を言う



「お前柔らかいな」

「もういいって‥わかったよ」



鉢屋の今の柔らかいは、少し意味が違った

手に残る夢介の柔らかさを、不思議に思いながら手を少し眺める

しかし、鉢屋の視界が突然空一面になった
と同時に背中が地面にぶつかる


「っ‥!?」


突然のことにも関わらず、その状況をすぐに理解することができた

夢介が悪戯な表情を浮かべながら
鉢屋を地面に抑えつけた


「さっきのお返しだ」

そしてまた舌をベッと出した


起き上がろうと、力をいれた時にはもう既に
夢介は鉢屋の腹の上に乗っていた


「三郎って、見た目より重いんだね」


その言葉に、鉢屋は何食わぬ顔で笑う

「それは夢介に力がないからだって。逆にお前は、見た目通り軽いんだな」


その言葉に、ハッとして慌てて鉢屋の上からどく


「い、いいだろ別にっ」

女心に、体重の話は少し恥ずかしい

照れ隠しに、その場にまだ寝そべっている鉢屋を
少しだけコツンと蹴りつける

笑いながら鉢屋は上体を起こした



──からかいがいのある、可愛いやつ

ハッと一瞬、自分の思考を取り消そうと、首を横にふる


そもそも整った顔をしている夢介だが
それ以上に、人を惹きつける魅力を持ち合わせていた



フと鉢屋の目の前に手が現れた


「?」

「ん、ほら、‥立てよ」


正しく言えば、夢介が鉢屋に手を差し伸べた

鉢屋はニッと笑いながら、手をとると
お互いの力で立ち上がった


夢介の手は、余分な脂肪が付いていないのに
どことなく柔らかく
鉢屋と比べると、小さな手だった


「お前……、体も貧弱だし、手も小さいなー」

「わっ‥ウルセー!離せっ」


夢介は鉢屋の手を払いのけ、自分の手を背中に隠した

何が原因で素性が割れるか
いつでも気が抜けないと、気を引き締めなおす


「まぁ何はともあれ、終わったんだろ?風呂入ろう」

「い‥いや‥、今日も夜遅くまで自主トレするんだ。ごめん、先に入ってくれよ」


いつも誘われるたびに心臓に悪い

これからもこうして断り続けるのも、どこまでいけるだろうか
不安でいっぱいだった


断るたびに、いつも皆は残念そうな顔をする


本当に自分が男だったら
裸のつきあい、とかしたりして楽しいだろうに

そんな思いを胸に――



「そっか、また補習になるもんな、まぁ精々頑張れよー」

「はいはーい」



鉢屋がそういうところで、しつこい奴じゃなくて助かった

と内心思う夢介だった









2009.03.17
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