男装五年総愛長編

□開いてくれ の段
1ページ/1ページ

/不破


空は日が傾きはじめている
最後の授業が終わり、我先にと夕食へ向かう生徒たち

そんな声を遠くに聞きながら、校庭では武器が積まれた荷台を引く音がする

「いやぁ夢介、上手なんだねぇ」
「へへっ、これだけは昔から得意武器なんだ」

何気ない会話をしながら、夢介と不破は荷台を倉庫へと戻しに行っていた


倉庫に着き扉を開く、実技後の疲れきった体には、普段より扉が重く感じる

「ふぅ、さて、それはどこに置けばいいんだ?」

夢介は倉庫内を見渡す

「んー、このへんじゃないみたいだね」

荷台をひきながら、不破も周辺を見る

「もっと奥の方かも」


そして二人は薄暗い倉庫の中を、奥へ奥へと進んだ

「雷蔵ー、あったよー」

倉庫の一番奥にあたる場所で、夢介が大きく手をふった

「は〜い」
と倉庫内に、不破が引く荷台の音がこもる

ようやく荷台を置き一息つく

「これだけの事だけど、無駄に達成感があったな」

なんて、うんと腕をのばしながら夢介が言うと、不破が共感するように笑う

「戻ろうか」
と夢介は不破に手招きをする

薄暗くて表情ははっきりしないが、おそらく夢介は笑顔で
そう思えた不破は、直視はできず
うん、とうつむき小さく呟いた


入室と同様に、夢介が扉を開けようと
重い扉を、踏ん張りながら腕に力をこめる


重く、鈍い音が鳴り響く

それは二人にとって、不穏な音に聞こえた


やり方が悪かったかな、ともう一度開けようと試みた
しかしまた同じ音が響く

夢介は思わず不破の顔を見る、不破もきょとんと状況が掴めないでいる

「え‥?ちょ、ちょっと待って、僕が開けてみる」

夢介は不安な表情で不破と位置を代わった

でも結果は同じ、ただ違うことは
夢介より強い力で開けようとしたため、音はよりいっそう、強く大きく響いたことだけだった

二人は真っ青な顔を見合わせた

「え?まさか……?」

不破が言い辛そうに、真実を口にする

「鍵……かけられちゃったみたい、だね」

「どっ、どうしよう‥!」

夢介は扉を叩いた、続けて不破も

「誰かいませんかぁ!」


どんなに扉を叩いても、どんなに助けを求めても
二人の体力が消耗するだけで、何も起きることはなかった

「うわ〜もう‥どうしよう」

くたりと夢介は扉を背にもたれた
同じように、不破も隣にもたれかかる

そして少しだけ、無言の時間がやってきた

だんだんと冷静になってきた不破は、気づいてしまった


 密室に、夢介と二人きり?


余計なことに気づいてしまったばかりに、ふいに心臓が速度をあげる

 まずい、こんな静かな中でっ!

音もない暗い密室で、すぐ隣には夢介がいる
心臓の音が、聞こえはしないだろうか

恥ずかしさのあまりに不破は、とりあえず何か喋らなきゃ、と決した

「え‥っと!」

「……?」

不安そうな表情で夢介は、不破を見る

「だ、大丈夫だよ!すぐに誰か来てくれるさ!」

夢介の不安も取り除けたらと、必死に喋った

「それにほら、ここは武器庫だから、さいあく爆発させて脱出できるよ」

なんて冗談っぽく言ってみせた

「あはは、そんなことしたら、食満先輩になんて言われちゃうか」

笑顔をを取り戻した夢介、この調子だと不破も張り切る

「そうそう、それにさ、一晩くらいここも悪くないかもよ〜なんて、あはは」

そんな冗談に、夢介は笑ってくれた


「ごめんね、ありがとう、座ってるだけじゃ解決しないよね、他に出れるとこ探そう」

夢介はよし!と気合を入れるようにして、壁から背中を離した
それに答えるように、不破も背筋を伸ばす

「だいぶ目も慣れてきたし、バラバラに探し歩こう」

じゃぁオレはこっち、と夢介は歩き出す
僕はこっちで、と不破は反対方向に足を進めた


「こっちは全然だめ」
「僕の方もとくには‥」

二人は、はちあうなり深く肩を落とした

それからすぐに不破は、天井を見上げながら首をかしげる

「あそこの小窓から、夢介出られたりしないかな」

「え、いくらなんでも、あれは小さすぎないかな」

壁に面した、天井に限りなく近いところ
犬猫なら簡単に通り抜けられるような、小窓がついていた

「夢介なら‥意外といけるかもしれない、やってみようよ」

普段からは想像もつかない、決断力のはやさ
おぉ、ときらきらとした目で不破を見る

よほど出られそうな自信があるのか、出られないとしても
このおいしい状況、そうそう手放せない
と、そういった気持ちから出る、いい加減な判断なのか、不破にしか真実はわからない


不破の意見を、反対する理由もない夢介は、小窓からの脱出を試みることにした

「まず、あそこまで登るんだね」

ふぅ、と息をついて、ふところからクナイを取り出す

「大丈夫そう?」

自分の提案なのに、不破は心配そうな顔で、夢介見つめる

「登ることは簡単だけど、出れるかどうかが大丈夫じゃなさそうだよ‥」

着やせするからな、なんて心で思いながら溜め息をつく

登り始めれば、やはり苦もなく軽快に小窓まで辿り着いた
そんな夢介を見守りながら、不破は下から訊ねる

「どう? 開くー?」

「よいしょっ、っと、待ってー、建付けかなぁ、なかなか開かないっ!」

壁にクナイを刺しただけの、不安定な足場
更に掴まるところが少ない中、小窓を力いっぱい開けようとする
見ているほうがひやひやする

「僕もそっち行くよ」

そう言うのと同時に、不破もすばやく上まであがってきた
不破は、片手を小窓を開けるのに使い、もう片手を夢介の背中にまわす、落ちないように

二人はせーの、で力を合わせたが、どんなにやってもビクともしなかった

「もう、あっちもこっちも、開きやしない」

夢介は頬を膨らませ、小窓に怒るようにコツンと拳を当てた

その瞬間夢介の足元で、壁に刺してた唯一の足場であったクナイが、ズズッと音をたてた


「え」

低速で周りが流れていくのを感じた


 ――夢介!


一瞬で反応した不破は、夢介の手を掴む
見事なまでに、空中で自分の位置といれかえ、落下地点を自分の上にかえた

不破は素晴らしい着地、をするつもりが
天井と床との距離が、思っていたほど離れておらず、見事なまでにバランスを崩す
着地失敗に終わり、背中は床に叩きつけられた

「‥ッ!」

その痛みは声にならない叫びだった

夢介も落下地点である不破目前
ここぞとばかりに、忍びらしい瞬発力を発揮させ、見事不破をまたぎ着地した

が、やはりバランスを崩し

「ありゃ」

と、しな垂れるように、不破の上に倒れ込んだ
痛みも忘れ、不破は慌てて受け止めようと、腕をのばしたが
夢介はその腕の間を、するりと抜け、胸の中に抱き止められる形に

「ッ!?」

足が地面に先についていたおかげか、不破への衝撃は最小限にとどめられた
しかし今の不破はそれどころではなかった

この状況、体勢、密着した身体、これはいったい

何よりも夢介の、このふんわりとした柔らかさはなんだろか

全てにおいて理解不能だった

「わあっ、ご!ごめん!」

夢介は慌てて不破の上からどく

しかし不破は、真っ赤な顔で、どもりながら言葉になっていない返事をする
恥ずかしさに、手で顔を覆う

不破の異変に、夢介は不安になる

「雷蔵‥?大丈夫‥?」

そっと不破の手をどけると、顔色を見るように覗き込んだ
不破は焦点が合わないまま、口をもごもごとさせる

見れば見るほど、顔を真っ赤にさせていく不破

夢介は、自分のせいかもしれないと

「雷蔵ッ‥しっかりして!ごめんっごめんねっ‥!」

なにが正解かもわからないまま、不破の身体をさする


『夢介‥それは逆効果だよ‥』

不破の心情は穏やかではなかった
さする手を掴み、冷静を装う

「大丈夫‥だよ!」

不破は、あははと照れたように笑うと、夢介の目に涙がたまる

「雷蔵〜‥」
と手をとりぎゅうっと握った

「だ、大丈夫じゃ、なくなってしまう」

「えっあ、手痛かった?ごめん‥」

そっと不破の手を離す夢介

「ううん、そういうことじゃないけど、気にしないで‥ははっ」

不破は、こっちの気も知らないで‥と、眉を下げた


いてて、と身体を起こし、壁にもたれた
夢介も一緒に壁に背を付ける

二人は並んで、天井をじーっと見つめていた

しばらくすると、不破の肩にとんと重みがかかる

「!?」

不破は思いがけず、身体を硬直させる
眠りこけた夢介が、不破にもたれかかった

一瞬で鼓動は速く、身体は熱く、目を見開き唇をかみしめる

横目でそっと夢介を見ると、肩にのる顔があまりにも近かった
自分の心臓の音が、倉庫中に鳴り響いてるような気がしてならない

息をするのも苦しく感じる
それなのに、いつまでも、こうしていたかった



「おーい!夢介ー?雷蔵ー?いるかー?」

戸の方から鉢屋の声

「さ、三郎!??」

夢介を起こさないように、そっと横抱きにして静かに立ち上がった
背中の痛みなど、気にしない

「三郎」

「おお、いたいた、こんなところにいたのか」

「よくわかったね、ありがとう、助かったよ」

「全然戻ってこないから、何事かと思った」


鉢屋は、不破の腕の中で眠る夢介を見る

なにか言いたげに、不破へ視線を送るも
不破は、色々あってね、と言葉を濁し笑った


その後、目を覚ました夢介から、謝罪と感謝の雨を浴びる不破だった




次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ