Dream
□ホームランと告白
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『今日の試合でホームラン打ったら俺と付き合って欲しい』
試合の直前、薬師寺に言われた一言。
私は笑顔で「うん」って答えた。
試合終了。
結果は5-0で海堂が勝利した。
しかし、ホームランを打った選手は一人もいなかった。
「はぁ…」
私は大きな溜め息を付いて観客席を立った。
勿論、そのまま真っ直ぐ家へ帰った。
数日後、私はまた薬師寺に呼び出された。
それもまた海堂の試合。
「今日の試合でホームラン打ったら俺と付き合って欲しい」
「…一体これで何回目だと思ってんのよ」
実はこうやって告白されたのは今回で5回目。
それも全てホームランを打てずに失敗した。
私は呆れ顔で薬師寺を見る。
「あのさー、そういうのって打てなかった時点で諦めるよね普通。 なんで告白に限ってこんなに往生際悪いの?」
「いや…何回も言ってたら逆に告白されるかなって…」
何抜かしてんだコイツ。
ボケてるのかとも疑ったが顔が本気だ。
私は更に呆れ顔で見つめた。
薬師寺はちょっと反省したのか、少し考え込んでしまった。
「それじゃあ‥‥‥今日の試合でホームラン打てなかったら付き合って欲しい」
私はそのまま家へ帰った。
後から聞いた話では、あの日薬師寺はホームランを2本も打ったらしい。
今となってはどうでもいいことだけど。
今日も海堂は試合だったなーなんて考えながら、私は黙々と夏休みの課題を進める。
一息付く度に頭に薬師寺が浮かぶけど、それもきっと残暑の所為だろうね。
「…アイスでも食べよ」
よっこいしょと立ち上がった時、たまたま視界に入った携帯が微かに点滅していることに気づいた。
急いで携帯を開くと、画面には薬師寺からのメールが表示されていた。
―――――…
今日の試合見に来て欲しい
これで最後にするから
…―――――
送信時間は2時間以上前。
私は家を飛び出して、走って球場へ向かった。
もう試合終わってるかもしれないけど、
本当は行かなくたっていいけど、
なんか、行かなきゃいけない感じがした。
私が到着した時、試合はもう終わっていた。
観客も選手も既に帰っていて、居るのは清掃員のおじさんくらいだった。
ガランとした球場を呆然と見つめていたら、なぜだか涙が零れてきた。
流れる涙の量と比例して、私の中の罪悪感もどんどん膨らんでいく。
なんで早く気づかなかったんだろう
なんで私から告白しなかったんだろう
罪悪感で胸が押し潰されそうになった。
ドラマならここで薬師寺が現れるんだろうけど、所詮は現実。
肝心な時に薬師寺は気づいてくれないんだ。
私は暗くなるまでずっと泣き続けた。
次の日、私は直接野球部の寮に向かった。
薬師寺への謝罪と、告白の為に。
End...