GKの散文

□黄金のたてがみ
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夕飯を作るのも、外食するのも面倒だったので持田は城西の家にいつものように押しかけた。
いつものようにって事は何度も繰り返され習慣化されているということで。
「シロさーん。メシ食わせてー」
なんて電話すればお決まりの説教はされるものの断られたことはない。
家にいるのを確認する意味合いぐらいしか持たない。
実際、以前城西が家にいるのが分かっていた時は突然家に押しかけてみた。
案の定、説教は食らったが追い返されることなんかなかった。

バランスの考えられた「ジャンク」の欠片もない夕食で腹を満たし、
城西は台所で食器を洗い、持田はソファのクッションを抱いてさして興味もないTV番組を眺めていた。


「ねぇシロさん。アフリカ行きたい」
テレビから顔を動かさずに言うと城西は水道を止め
「何か言ったか?」
と聞き返してきた。
「アフリカ連れてって。って言ったの」
持田は腕の中のクッションを抱きなおしたが顔は画面から動かさずに返した。
「アフリカ…に、何しに行くんだ」
ああ、いつもの思い付きでのわがままか、と城西は洗い物の手を再開させる。
「ライオンに会いに行こうかなって」
持田はんーっと伸びをしながら城西の方に向きやった。
「それでアフリカか」
いつもみたいに「なんとなく」と返ってくると思っていた城西は少し違和感を覚えた。
「そ。野生の、百獣の王様にご挨拶に行きたくってさ」
ソファから立ち上がり、シンクに向かう城西の背後に持田は回りながら言う。
「野生の雄ライオンの死に方って、知ってる?」
城西は一瞬持田に目線をやったがまだ残っている未洗浄の食器に視線を落とす。
背後の気配は動かない。
「調べたことはないが、老衰、餓死・・・ではないのか?野生の捕食者の末路は」
城西は動物の生態に詳しくはないが、
肉食のライオンを攻撃する動物はあまりいないだろうし、
よくTV番組で何日間エサが取れない野生のライオンなんて特集を見た記憶から答えを出してみた。
ふっと背後の気配が近づいてくる。
耳元に、息がかかるほどの距離に気配がやってくる。
「はっずれー」
腕は腰に回され隙間無く体が密着する。
やめろとか、洗い物の邪魔をするなと注意をする間もなく
「正解は、若い雄ライオンに殺される、でしたー」
クククっと笑いながら持田は城西のシャツの中に手を滑り込ませる。
その間にもライオンの死に方について楽しそうにしゃべっている。
「ライオンってさ、コロニー?だっけチーム作って生きてんじゃん?あれ、うかうかしてると若い雄に乗っ取られるんだって。
それでその時殺されるか、傷を負って、餌も捕れずに弱ってるところをハイエナとかに食い殺されるんだって」
ケタケタと笑いながらも服の中で指先を踊らせる。
「こら、洗剤が撥ねるから後にしろ」
と制したら
「アハハ、ほんっとシロさんは優等生だね。今すぐシてよ。じゃなければ他行くからさぁ」
と持田は城西のジッパーに手をかけた。
ここで城西が断れば持田は本当に何処か別の男のところへ行くだろう。
この体を欲しがる相手は幾らでもいる。
ただ、この我が儘を受け止めるのは自分だけでありたいと城西は思う。
手についた洗剤を水で流しソファまで持田の手を引いて連れて行き、さっきまで持田が見ていたテレビに目をやる。
TVには青い空と果てしない草原が広がっている。
済し崩しのような関係はあまり好かないが段階を踏んでいたら
「前置きが長すぎるんだよ、シロさんは」と怒られたから、あまり好かないがそのままこの我が儘なチームメイトを組み敷いた。
「ははっ、もっとがっついてよ。じゃなきゃ面白くないよ」
城西の腕の下で持田は楽しそうに笑った。


ぐちゃぐちゃと内臓を貪る様な行為の最中、二人は睦言のような事を交わした事はない。
そもそも愛情なんてない。
城西はあまり最中にしゃべるのは好きじゃなかったし、持田もたまに口を開いたと思えば文句ばかりだ。
それも「もっとさぁ、痛いくらいぐちゃぐちゃにしてよ」なんて煽るような。
そんな二人には珍しく、持田が城西に声をかけた。
「一生忘れらんないような音が、脳天に響くんだって」
焦点の合わない目で、口から涎をたらしながら持田は城西に手を伸ばしながら言った。
「足、駄目になるとき。バッツンって体中に、腱が切れる衝撃が響くんだって」
伸ばしていた手を今度は目の上においてハハっと笑う。
「誰が俺を食い殺すのかな。チームのやつかな。それともどこぞの王子様が飼っている猟犬かな」
ぐにゃりと、酷く歪んだ顔で、それでも至極幸せそうに持田は笑っていた。
「もち、だ?」
城西は規則的な動きを止め、持田の顔を見ようと顔を近づけると
「何してんの。やめないでよ。ぐちゃぐちゃに、してくれるんでしょ?」
と持田の顔の横に置いていた手首を噛まれた。
その顔が東京Vの10番を背負う王様ではなく、年下の一人の男に見えた。
いつか、どんな形であれ皆終わりを迎える。
その時の事を反芻しながら持田は城西に情事を求める。
城西に持田の本当に欲しいものはよく分からなかったが、こうしている事で少しでも救われればいいと思っていた。
「何考えてんの?つまんない事考えてたら殺すよ?」
下から攻めるような視線を受けて城西は持田の頭を撫で、
「次も、必ず勝つぞ」
と目を見つめて言うと
「あはははっ!シロさんサイコー!!」
と持田は上機嫌に笑った。
「やっぱさぁ、勝利より、気持ちいいもんないもんね」
また、持田は王様の顔に戻る。
まだ、走れる。
終わりなんて誰に対しても突然来るから。
走らなきゃ。
変えがたい快楽を共にするために。
今夜は良く眠れそうだなぁなんて思いながら持田は欲を吐き出して意識も手放しながら、
青い空の下、永遠に広がるような草原を、いつまでも走り続ける夢を見たいと思った。

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