大方、そういった関係は終わらざるを得ないのだった。


それがあと二年なのか、十年なのかはそれぞれだが、いつか終わるそれ。










ぬるくつよい風









「も帰るわ」

「…おう」


ちらけた部屋の中から適当にシャツを見つけだし軽く羽織る。


「また来週な」

「おう」



聞き分けよく返事した黒髪はだるそうに寝たままで、



「鍵、しめてけよ」



と言っただけで、一度も振り返ることはなかった。






部屋を出て川沿いを歩けば、もう空と空気は冬の色をしていた。

ポケットに手を突っ込むとチャリ…と二つの家の鍵が手に触れた。




「はあ」



ため息がいつまでも自分にまとわりついているようだった。



「はあ」




それをまた吐く、とりあえず何かが憂鬱で。









「おかえりなさい」



部屋の中は外と違って暖かく、また片づいていた。



「ああただいま」



うまく笑えただろうか。





「今日病院行ってきたの、順調ですって」

「そうか、よかった」



少し目立ち始めたお腹に触って耳を当てた。



「元気に動いてる気がする」

「まだそんな大きくないわよ」



笑顔につられて笑ったけれど


安堵の裏にはいつもチリチリした言い知れない不安みたいなものがある。




「アスマ」

「どうした」

「…ううん、何でもない」


「…」







大丈夫だよと言えない自分に憤りを覚えた。

彼女が何を聞きたいか分かってるんだ。










だけど、あのすねた黒髪を捨てきれないでいる。








窓を開けるとぬるくつよい風が吹いた。


ベランダの赤い花のひとつがさっき見た空の方向に散っていった。



「今日の風は暖かいのね」



なんて声を聞きながら





花のゆく先にいるはずの奴をおもい浮かべて、




軸ごとなくなった花を優しく土から引き抜いた。













20081222

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