それは自分の方に目を向けさせないための布石。
「あんまほかの奴にいい顔すんな」
「なんだ妬いてくれるのか」
冷蔵庫からなんか冷えた缶を出しながらアスマは笑いながら言った。
「別にそゆわけじゃねえけど」
「だいじょぶだいじょぶ」
言うが早いがソファに座っていた俺を、それごと抱きしめた。
アスマの口が鼻元にきた時にすっとアルコールが香って、ああやっぱりあれはビールだったと気付く。
「俺にはお前しか見えてねえ」
「…どーだか」
釣れねえ奴、とそのまま低反発なクッションに沈み込んで事に及んだのはまた別の話で、
初めから最後のセリフに到るまでのそれが何かを隠すためのものだったとしたらさ、あんた何て言うだろうなあ。
おこる?悲しむ?
そうだよ、俺はお前だけじゃないの。
【嫉妬じゃなくてごめんね】
「ああ、うん、うん、また日曜にでも」
用件だけを短めに話し、電話を切った。ご丁寧に着信履歴も発信履歴も消した。
一つあくびをして横を見た。ふと目に入ったのは昨日アスマが飲んだアルコールの缶、潰れていた。
洗濯機に入ったソファカバーに、下に落ちたクッションと吸い殻だらけのアスマのためだけに買った灰皿。
「胃、痛い」
こんなにもアスマに支配された世界なのに何でだろうね。
胃が痛いけど、笑みがこぼれるよ。
ああそうだ、掃除したら、アスマに電話しよう。
痛い胃の辺りをさすりながら、洗濯機のスイッチを入れた。
カバーに付いた汚れは簡単に消えてしまうよ。
そうゆうものでしょ。ね。
だから、
嫉妬じゃなくてごめんね。
081229