Psychedelic Heroine

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「ハーイ、乾杯ー!」


裸豆電球だけの小さなオレンジの光の下、グラス同士がぶつかる音がして、アンバーの液体が揺れ氷がカラリと鳴る


「しっかし今回はまた随分と楽だったんじゃねえか、ルパン。」

「ヌフフ、まあねん。とっつぁん達には新しく作った催眠ガスでお寝んねして貰ったし?俺っちったら天才ー!」


キャーッルパン様かっこいー!などと一人芝居でソファに倒れ込み悶絶するルパンを横目に、次元大介は呆れながらバーボンを煽った

矢張り一仕事終わった後に飲む酒は美味い、と目深帽子を被ったまま口角を上げ密かに笑う


「で、今回はどんなブツなんだ?」

「お、良ぉーく聞いてくれました次元ちゃん!今回は超凄いのよー!」


ニシシ、と独特の笑いがルパンから零れ、無意識に次元の期待が膨らむ


「今回戴いたお宝ちゃんはあーこちら!!」


ソファの後ろから出てきたのは決して大きくは無い白い上等な革が使用された各々の角に桃色の金具があしらわれたトランク


「おいおい、まさかこんなんだけの為にかよ…」

「馬ー鹿言っちゃダメよ次元ちゃん。この中身が凄いったら無いんだって!!」


凄いのは解ったから早くしろ、と意味を込めてルパンを見遣ると、彼はグラスのバーボンを一気に飲み干して

ニヤリと唇を歪め笑いながら、ポン、とトランクを軽く叩く


「ここには、この世の何より価値のあるお人形ちゃんでえーす!」


暫しの沈黙


「……はあああ!!!?」


思ったよりも間抜けな声が出たな、と何処か冷静に頭の隅で次元は思う


「良い歳したおっさんがお人形遊びかよ。ケッ、くだらねえ。」

「ちょっとおー!俺っちが戴いてきたお宝ちゃんがそんなただのお人形な訳ないでしょうが!!」


ムキー!と近くに顔を寄せてくるルパンを華麗にかわし、自分もトランクを叩いてみる


「じゃあ何なんだよ。」

「んー?このお人形ちゃんは単体でも相当の価値はあるんだが、本当は黄金郷への道標の役割を持っているんだ。」


コポポと小気味良い音を立て空になったグラスにまたバーボンを注ぐルパンを見ながら、在り来たりな寓話みてえだな、とは流石に言わなかった


「そーんじゃ、御開帳〜。」


手を擦り合わせて、トランクを横に倒し

ガチャン、ガチャン、と無機質な音がこの仄暗い部屋に響く


「ッ、」

「わお…」


そこには胎児の様に丸まり収められている人間そっくりの人形

そのピンクの流れるようなツインテールの髪に、気が付けば手を伸ばしていて


「…次元?」

「ッ、あ、いや、まさかこんな人間そっくりとはな…」


今、俺は何をしようとした

無意識の下に行われたその動きに次元自身戸惑いを覚えるも、何とかごまかし今一度人形に目を向ける


「で、どうやって黄金郷への道は開くんだ?」

「それはねー…わっかんない。」

「オイッ、どういう事だよ!」


お手上げ状態のポーズを取り、ソファに深々と腰を鎮めるルパンに次元は吠える

嗚呼、またこの男に嵌められたのか、と


「違うのよ、色々と情報漁っても全ー然出てこねーの。もしかしたらこの人形を手に入れればそのまま直ぐに何かしら見付かると思ったんだけど、ご覧の通りだし?」

「ったく…そう言うのは仕事前に言えってんだ。」


まだバーボンの入ったグラスを持って立ち上がり


「次元ちゃん?」

「見せてみろよ、お前さんの集めた情報を。」


この仕事に最後までノったと言う意味を込めてニヤリと笑う

嵌められたのなら、最後まで付き合ってやろうではないか

それに、この天下の大泥棒と呼ばれる彼の能力を駆使しても何も情報の出てこない宝物にも興味がある


「さっすが俺の相棒!」


次元に続いてルパンも立ち上がり、人形に背を向ける様にダイニングテーブルの上のパソコンを起動した

小さな起動音の後。ルパンは手慣れた手付きでマウスを動かし、一つのファイルを展開させる


「本当にさっき聞いた事だけだな。」

「でそ?あーもー人形分解しちまおうかしら。」


ぎゅうぎゅうに吸殻の詰まった灰皿からシケモクを拾い上げ咥えたその瞬間


「無駄だよ。」


今まで聞いた事の無い鈴をコロリと鳴らした様なその声に、二人は瞬時に愛銃を装填し、構えて、声のした背後を振り返ると


「そんな噂、真っ赤な嘘だよ。」


そこには先程二人が見ていた『人形』が

先程二人が腰掛けていたソファに座り

不敵な笑みを浮かべていたのだった







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