Psychedelic Heroine

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「だから、嘘だよ…って、おーい、聞いてるー?」


『人形』が小さな口をそう形作ったのに対し、二人はまだ呆気にとられ身動き一つ取れずにいた


「人形が…」

「喋ってる…?」


やっとの事で絞り出したその言葉を聞き


「ぷっ…キャハハ!何言ってんの、僕は人間だよ?」


流れる様な仕草で何時の間にか二人の目の前にいた『人形』基『人間』と名乗る少女は、彼等の片手を掴み、何の躊躇いもなく自身の左胸に押し当てる


「ちょっ、ちょ、ちょ…!」

「っ、!」


戸惑うも、少しして手に伝わる振動は生きている証でもある心臓の鼓動

それを確かめていた次元の手の甲に、彼女のピンクの毛先が掠め擽る

その瞬間次元はいち早く我を取り戻し、パッツと手を離して落としかけていた愛銃を彼女の眉間に突きたてた


「おや、銃を突き付けられた。」

「当たり前だ。人形だと思っていたモノが人間だとなっちゃあ、お前さんが敵か味方か判断しなきゃならねえ職業なもんでな。」

「ふむ、確かにそれは正論だね。ところで君の相棒クンはいつまで人の胸を触っているのだろうか。」

「は…?おい!!」

「いってえ!!」


彼自身はもう臨戦態勢を取っているものの、ルパンは未だ彼女の胸に手を押し当てていたままで、その手をパシンと叩く


「確かに僕はまだ第二次性徴を迎えて無いからぺったんこで何の楽しみもないけれど、僕だってちゃんと女なんだけどなー…それとも、君は、その…ロリコンなのかい?」


銃を突き付けられた時は顔色一つ変えなかったが、今の質問を投げかける時は怪訝な表情を浮かべルパンを見ている

言葉遣いといい、飄々と掴み所のない雰囲気

何なんだこの少女は…


「ヌフ、ガキにゃ興味ないけど将来有望なお嬢ちゃんはべゴフ!!」

「キモい。」

「ルパン!!」


ワキワキといやらしく手を動かすルパンの顎を、少女はチェルシーシューズの甲で蹴り上げた


「てめぇ…」


ガチリと更に銃を握る手に力が込められる


「や、今のは完全に俺っちが悪いって。」

「うん、そうだね。」


顎を擦りながらニヘニヘと笑いながら次元を諭すルパンに少女は間髪入れずに同意する


「お前さんは少し黙ってろ。」

「う?」

「まあまあ次元ちゃん。こんなお嬢ちゃんに警戒しなくたっていいでショ?」

「チッ…」


確かにこの少女からは殺気は感じないが、何処か違和感は拭えない

それは殺し屋として培ってきた自分の勘から来るもので

何処か信用ならないと頭の隅で警鐘が鳴る


「で、お前さんは何者なんだ?」

「……」

今までペラペラと喋っていた少女は口を噤む


「どったの、お嬢ちゃん。」


何処か痛めたのかと心配し、ルパンは顔を覗き込むも、様子は先程と一寸も変化はない


「おい、何とか言え。」


流石にもうこの少女は危害は加えないと判断し銃を眉間から離し、促す


「あのさ、人に黙れ、って言ったり話せ、って言ったりどっちなのよ。」


降ろした銃をもう一度眉間に突き付けて今度こそぶっ放してやろうか、という思考が頭を過った


「僕は眞姫。眞姫・ペトラルカ。」

「何者なの?」

「人形師。」

「は、こんなガキが?」


冗談じゃない、と次元は帽子を深く押さえる


「んーまあ今は証明出来るものはないから反論は出来ないねえ。どうやら君達は、僕が作った人形と間違えて僕自身を盗んでしまったようだね。」

「なんだと!?おい、何してんだよ!!」


自分等はどうやら間違ったモノを盗んできてしまったらしい

直接盗みに入った張本人のルパンに、次元は抗議の声を上げると


「だってー二つトランクがあってーこっちのトランクのほうがーお宝ちゃんの匂いがしたんだもーん。」


と彼は両方の人差し指同士を突き合わせてしょげてみせた


「で、嬢ちゃんは。」

「眞姫だって。呼び捨てで良いよ。」

「…眞姫は何でトランクの中にいた。」


その質問を次元がした瞬間、眞姫は一瞬ピクリと肩が跳ねたが、すぐに先程の意思の酌めない表情に戻る


「盗まれたくってねえ。間違えて盗まれればこれ幸い、ってな感じで自分と賭けをしていたんだが、まさかこうなるとはねえ…」


ケラケラと笑ってはいるが、二人には何処か引っ掛かり生まれる


「…眞姫ちゃんは何で盗まれたかったの?」

「んー…好奇心?まあ、気分転換…ってのじゃダメ?ってか別に良いじゃん僕の事なんて。」


人形が目当てだったんでしょ?と小首を傾げる彼女に、次元は先程の警戒心とはまた別の、胸にモヤモヤとした感情が纏わりつくのを感じた


「そうねー、今回は盗みも失敗しちゃった訳だし、黄金郷も嘘だって解ったしー。」

「どうすんだ、これから。」

「うーん…」


と、溜め息雑じりに答えたルパンの視線が眞姫に向けられる


「眞姫ちゃんを間違ってあの屋敷から盗んじまったし、返しに行くか―。」

「え、別に良いよ、こっから歩いて帰れるし。」

「いや、でも…」

「言ったでしょ、気分転換したかったんだ。夜の街なんて知的好奇心擽られるし、歩くのも悪くはない。」


にこりと微笑みながら広がっているワンピースの裾をクイクイと引っ張り直す


「あ、あとお兄さん達、人形どうするの?もっかい盗むの?」

「考え中ー。」

「そ。まあアレにはお金掛けたからねえ、単体で高く売れるだろうよ。それに自慢の一体だ。あ、でも盗んだらロクでもない事が起こるからあんまお勧めは出来ないかな?」

「…ロクでもない事?」


目深帽子の下から、次元は視線を寄越す


「簡単に言っちゃえば曰くつき、ってヤツ?」

「ほお…」


まただ

また何か、何処か腑に落ちない感覚


「じゃ、そろそろお暇しようかね。」


パチンパチンとトランクの金具を閉め、よっこいせと持った眞姫は


「そうだ、これ。迷惑料だと思って受け取って。」


ワンピースのポケットを漁り、何か握った手を次元に差し出す


「っ…」


その何かが掌に落ちる前に彼女の手に一瞬だけ触れた瞬間、次元は痺れる様な甘い感覚に襲われ小さく息を詰めた


「おい、これ…」


ルパンが背後から顔を覗かせ戸惑いを見せた

それにつられ先程の感覚を忘れる様に彼も掌を見ると、そこには滅多に見られない大きさのルビーの玉が、コロリ


「それ実は次の人形の目にしようと思ってたんだけど他の案を採用したから余ってたんだよね。余りモノでごめんだけど、売れば高く付くよ?」


生憎現金の持ち合わせがなくてね、と言いながら彼女は扉のノブに手を掛けて振り返り、二人を見る


「それから……盗んでくれて本当に有難う。ルパン三世と、次元大介。」


そう言い残して、彼女は夜の帳に包まれ姿を消した

この一連の流れに、彼女と出会った最初の瞬間の様に呆気に取られていた二人だが、最初に口を開いたのはルパンだった


「眞姫ちゃん、俺達の名前…」

「…ああ。」


一瞬間を作って返した次元の手には、彼女と触れた場所が熱を持ち、未だ消えずに残っていた







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