○ Brave sword ○
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ジジッと、かすかな雑音が耳に届く。
ブルーの蹄の音も、耳元を通り過ぎていく風の音も押しのけて、共鳴イヤリングから直接耳の中に音を流し込まれる感覚。
『ソード、敵の反応が移動しているわ。そこから西へ1キロ』
未だ慣れない感覚に頭を振り、訓練の通りに額に意識を集中する。
「了解!」
『…ちょっと、聞いてるの?聞こえたなら返事をしなさい!』
どうやら、思念の送信に失敗したらしい。
頭に突き刺さるような短気なサポーターの声に顔をしかめながら、再び意識を集中する。
『りょ、了解、アイラさん!』
『そうよ、伝心はそうやって使うの』
満足そうな声。
褒められて少しだけ嬉しくなって、マスクの中で口元を緩めた。
それにしても、と思う。
今身につけている、この鎧は一体何で出来ているのだろうか?
青い革を主体とした全身を覆う鎧。頭や体、手足の一部に板金が入っているが…。
金属とは違う素材。どの動物の皮とも違う手触り。
なのに、金属よりも硬く、皮よりもしなやかで軽い。
頭だって兜とマスクに覆われてドコにもスキマはないのに、視界も聴覚もさえぎられるどころか、むしろ鋭くなっている。
そもそも、装着の仕方が独特すぎる。
鎧を着るのではなく、着た姿に変身する魔術。
この力は、一体何なのだろう?
2ヶ月に渡る訓練中も感じた疑問が、ふと頭をよぎる。
人間を襲う怪物たちを倒す力。
ソレがなんなのか、説明なんてモノは何もなかった―――
『ソード』
再び念話が届く。
今度は男の声。
『チーフ?!』
『ソード、トーラスが苦戦している。急いでくれ』
『レイジスさんが…?了解!』
先に戦っている先輩の状況に、驚く。
彼が苦戦するほどの敵とは…。
ぐっと、手綱を握る手に力を込める。
それだけで、魔術で強化された馬、ブルーは乗り手の意思を汲み取り、さらに走るスピードを上げた。