○ Brave sword ○
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闇から開放されたとき、フォウルは、再びその時が来たことを知った。
次の1万年を支配する種族を決めるための、争いの始まり。
戦えるという喜びを胸に世界と己を知覚し……その瞬間走った衝撃は、今までにないモノだった。
予想は…していなかったわけではない。
だがソレは、あくまで万が一の可能性だった。
先の聖戦で己を打ち負かしたのは、かの忌まわしき獣だった。
獣は強い。だが、常ならば苦戦はしても、ああも完膚なきまでに敗北したことは無かった。
先の戦いでの敗北は、これまで力でねじ切るだけだった獣の戦いに、妙な賢しさが加わっていたからだ。
そしてその原因が、いつの間にかその傍らにあった取るに足らないほど矮小な者のせいであったことを知ったときには、己の身は選定の石版にゆだねられていた。
ふん、と鼻を鳴らし、柔らかく己を包む椅子に身を沈める。
それだけではナニモノも破壊することのできない、柔な肉体。
戦いには無関係な何もかもを知覚し、ムダに揺れ動く精神。
下位の神とは違い、上位の神は聖戦を有利に勝ち進むために、その世界を支配する種族の肉体を仮初に纏うことが許される。
すなわち、目覚めて纏う姿が先の聖戦の勝利者で――今回の目覚めで初めて己の姿を見たとき、あの矮小な者が勝利者だと知ったのだ。
いったいどんな方法でかの者が勝利したのか…ロクでもない手段を用いたのだろうことは想像できる。
アレはそういった戦法で勝利を掠め取り、また逃げ続けてきた卑怯者だ。
そして、その眷族たちの世界で再開された聖戦は、歪められ堕落した紛い物――。
「まぁ、それでもよかろう」
1人つぶやき、部下から手渡された書類に目を通す。
紛い物であろうとも、聖戦は聖戦。
己に勝ち残る手段がないのならば、その手段を自らの手中に収めればいい。
人間も下位の神も、操り利用するなど造作もないこと。
そして己にない力を持つモノを、この手で造り上げてしまえばいい。
たとえソレが、アークナイトと呼ばれる存在であろうとも、だ。
しかし、彼らに手を出す前に、確認しなければならないことがある。
書類に添えられた写真に写っているのは、下位の神と戦う黒い痩躯の戦士と、人間の子どもと共にある小柄な青年。
部下に任せているだけでは何もわからない。
これは、自らの目で確かめなくてはならないだろう。
利用できるか、否か。
ぎしりと椅子を軋ませて立ち上がり、部下を呼びつける。
忠実な下僕に外出の準備を言いつけ、フォウルは再び鼻を鳴らした。