○ Brave sword ○
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窓から農場を眺め、ルカははぁっとため息をついた。
視線の先には、ぼーっと空を見上げているジェンの姿。
「ジェン、大丈夫かなぁ。ここ1週間ずーっと、あの調子だけど」
「裏切られたコトがショックだったのよ。ジェンくん、レイジスさんのこと、本当に信頼してたから」
もう一度ため息をつき、ルカはまた新しく加わった同居人に向き直った。
ぱつっと肩口で切りそろえた栗色の髪と、きりっとした顔立ちが印象的な女性…アイラ・ロイズは、大量の荷物を抱えて2階へ続く階段を上ろうとしているところだった。
「手伝うよ。そんなにムリして運ばなくても…」
「大丈夫よ。これくらい余裕」
にっこりと笑った顔は、本当に言葉どおり大丈夫そうで。
華奢な体で大きな荷物を運んでいく背中に、ルカは思わず、働きアリを思い出した。
ちょっとお尻が大きいところもそっくり。
そう考えて、はっと思い直す。
何を考えてるんだ、と、ぶるぶると頭を振ったところで、戻ってきたアイラが訝しげな目で見つめていることに気付いた。
「…どうしたの?」
「な、なんでもない」
へらっと笑ってごまかして、居間と廊下いっぱいに積んである荷物を眺める。
「…女の人って、ホントに色々と必要なものがあるんだねぇ」
呆れを通り越して感心してしまうレベルの荷物だ。
その言葉に、きょとんとするアイラ。
「なに言ってるの?コレ全部、研究所から持ち出した資料よ」
「……へ?」
その言葉に、思わず二度、かさばる荷物を見てしまった。
「研究所って、アムリタ研究所の?」
「そうよ」
邪魔な荷物から、宝の山に昇格!
心の中でガッツポーズを決め、にこにこと、一番重そうな荷物に手をかけた。
「やっぱり、手伝うよ。1人よりも、2人で片付けた方がはかどるだろ?」
「それはそうだけど…何か悪いわ。部屋を貸してくれるってだけで、充分ありがたいのに…」
「いーのいーの、遠慮しない♪」
「ありがとう、ルカくん。貴方ってホントにいい人ね」
「いやぁ、そんなことはないよ」
照れながら、ぐっと荷物を持ち上げる。
……重い。
予想外の重さに、へにゃっと腰がくだけそうになった。
それでもアイラの視線を感じて意地を張り、なんとか持ち上げて階段を昇る。
「それにしても、よくこんなに、資料を、譲ってくれたね」
力んでいるために途切れ途切れになりながらも、余裕を見せようと話はやめない。
そんなルカの横を荷物を抱えながらも器用にすり抜けて、アイラが肩をすくめた。
「許可なんて取ってないわよ?研究所が壊される前に侵入して、めぼしいものを片っ端からくすねてきたの」
トントン、と軽い足取りで階段を上っていくアイラ。
事も無げに大胆な発言を聞かされ、ルカは目をまるくした。
「それって、大丈夫、なの?相手は、あの、錬金術、協会、だよ?」
錬金術学会はもちろん、財界や政界にも発言力を持っている大きな組織だ。
荷物を部屋に置き、再び横をすり抜けるアイラが、じろっとこちらをにらみつける。
「…私もジェンくんも、研究所のことを何も知らないのよ?聞いても答えてくれないし…。
それなら、自分たちで自分が所属していた部署のことを調べるしかないじゃない。これって、悪いこと?」
無断で組織のモノを持ち出したりするのは、明らかにマズいことなのだが…アイラの迫力に押されて、言えない。
あいまいな笑みを浮かべてごまかした。
「でも、不思議なのよねぇ。今回のこと…協会はなんで、あんなに早く動いたのかしら?」
残りが減ってきた荷物をまとめながら、アイラが独り言のようにつぶやく。
その独り言に、ルカもそうだよねぇ、と首をかしげた。