○ Brave sword ○
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「だから、ファインさん。ミーナのためにも、ウチに居てちょうだいね。
遠慮なんていらないから……ファインさん?」
ぎゅっと胸を押さえる自分を、マリーが心配そうに見つめていた。
「あ…いえ…」
うろたえながらも胸から手を離し、ファインはよろよろと水場から離れる。
「すみません、少し、体調が悪いみたいで……」
「大丈夫?後は片付けておくから、お部屋で少し休んできたら?」
「はい、すみません。お言葉に甘えて…」
ペコリと頭を下げ、自分の部屋へと向かう。
わからない。
ここは、わからないことだらけだ。
オレは、なぜこの家に来たのだろう?
なぜあの時、あの子をかばったりしたのだろう?
なぜあの子のことを考えるだけで、こんなにも心地よいのだろう?
なぜそれと同じぐらいに、不快なことばかり起こるのだろう?
それなのになぜ、オレはあの2人の元から離れないのだろう?
自室の扉を開き、1人だけの空間にほっと息をつこうとして…ファインは、視線の先に先客がいることに気付いた。
「…ミーナ、ちゃん?どうしたの?」
名前を呼ばれて、掃除を言い付かっていたはずの少女が振り返る。
彼女が無心に見つめているのは、壁に飾られた数々の写真…彼女の、父親が撮影した…。
「ファインさん!私ね、いいこと思いついたの!」
満面の笑顔ですぐ前に近づき、両手を握り締めてくるミーナ。
…こんなにも、この子が近づくことに慣れたのは、いつだったのだろう?
「ファインさん、もっともっと写真を撮って。
お父さんのぐらいきれいな写真をいっぱい撮って!」
突然のお願いにファインは驚き…そして、苦笑した。
「ミーナちゃん、ムリだよ。オレには……」
「出来るよ!」
キラキラと輝く目で。
疑うことなど知らないという顔で。
ミーナはきっぱりと、そう言い切った。
「ファインさんなら出来る!だから…」
握っていた両手を離し、少女が自分の小指をファインの小指に絡める。
「約束」
「やく、そく?」
「うん、約束。
ファインさんが上手に写真を撮れるようになったら、私のこともたくさん撮ってほしいの。
お父さんの代わりに……」
そこまで言って、ミーナがはっとしたように手を引っ込めた。
絡んでいた小指が離れていく。
「変だな。私、なんで今日はこんなにお父さんのこと、思い出すんだろう?
ファインさん、突然ごめんなさい」
えへへーと笑い、ミーナは部屋を出て行く。
扉を閉める前に立ち止まり、少女はにっこりと笑った。
「でも、約束だからね!」
ぱたん、と閉じた扉。
ファインは、そっと手を持ち上げた。
自分の小指に絡んだ、少女の体温がまだそこに残っている気がする。
「やくそく…」
『たのむ…かぞくを…』
テーブルに置いてある、使い込まれたポーチを手に取る。
中に入っているのはカメラ用の小さな道具と、少し痛んだ一枚の写真。
そこに写っているのは、マリーとミーナ、そして、この写真を渡してきた男自身。
「……かぞく」
死を目の前にしながら、己の身よりも2人を案じた男。
「わからない…なぜ……」
つぶやくと同時に、脳裏に声が響いた。
『■■■■』
忌々しい呼び名をささやく声に、ファインはその場でうずくまり、頭を抱える。
やめろ。
『■■■――』
やめてくれ…
今は、その名前を聞きたくない!