○ Brave sword ○
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さすがに傍観しているだけではいられなくなり、ルカはいつもの調子で口を挟もうとした。
手を上げることは無いだろうが、怒りに我を忘れてアイラを傷つけたりしたらジェンは…きっと彼はそれ以上に傷つくだろう。
ふたりとも、少し落ち着いて。
そう言おうとした声は、アイラの声にかき消される。
「いい、私は1人でチーフを探すわ。
私は、チーフを信じてるからっ!!」
甲高い声で怒鳴り捨てて、居間を出て行くアイラ。
「あ、アイラさん!」
「あんなやつ、ほっとけよ」
追いかけようとした足を止め、ルカはジェンを振り返る。
彼は、腹の中の苛立ちを吐き出すように唸りながらソファに掛けなおし、頭をかきむしった。
「くそっ…オレが、怖気づいてるだって?
そんなこと、あたりまえじゃないか!
レイジスさんはいない、チーフもいない…その上……」
がん、と、肘掛を殴る。
「オレの気持ちはどうなるっ?!
体が、ボロボロになるって言われたんだぞ!
アイツは、俺のキモチをわかっちゃいない!」
「それは違うよ!」
ルカはたまらず声を荒げた。
驚いてこちらを見上げるジェンに、真剣な目で見つめ返す。
ジェンのサポートをしているアイラは、いつも唇をかみ締めていた。
冷静に情報を送りながら、ソードやトーラスが攻撃を受けている反応を示すたびに、拳を硬く握り締めて。
戦闘が終われば、帰ってきたジェンの手当てがすぐにできるように、薬の用意をして。
「彼女は、君の気持ちをわかっているよ。
それに、クロウさんのことも信用している。
だから、レイジスさんの話を信じたくなくて…余計に辛いんだと思う」
ジェンの表情から怒りが消え、代わりに口から大きなため息が漏れた。
ソファに体を預け、天井を見上げる。
「……オレだって、わかってるよ。
アイラさんの伝心は、いつだって優しいんだ」
ボソリとつぶやく言葉に、ルカは少しだけ驚いて…柔らかく微笑んだ。
きっと、2人ともお互いの前では、絶対にそんな態度を見せないんだろう。
それでもちゃんと繋がっている。
不器用で一生懸命な2人。
その2人を少なからず利用していることに、ルカの心が少しだけ痛む。
もっとも、すこしばかり罪悪感を感じたからと言って、義兄さんが死んだ本当の理由と責任を追求することを、やめたりはしないけれど。
そのときジジッと、耳元で奇妙な音がした。
耳鳴りのような不快な音に、ルカは眉をひそめて辺りをうかがう。
そんな彼の奇妙な行動に、ジェンが体を起こして首をかしげた。
「ルカ、どうしたんだよ?」
「いや、なんか耳鳴りみたいな音が…」
とんとん、と耳を叩く手に、左耳にぶら下がっているイヤリングが触れる。
「…なぁ、ソレって、共鳴イヤリングの音じゃないのか?」
ジェンが自分の耳を指し示しながら言う。
アイラから受け取り、なんとなく付けたままで存在を忘れかけていたソレを思い出して、ルカはぽんと手を叩いた。
「そういえば、付けたままだったよ。
…あれ、どうやって使うんだっけ?」
へにゃっと笑いながらジェンに助けを求めれば、大きなため息とともに使い方を教えてくれた。
礼を言いつつ、なんとか言われたとおりに心をつなぐ。
『なにやってんのよ、ルカ!出るのが遅い!!』
『み、ミーナちゃん?!』
そのとたん頭の中に、ミーナの怒鳴り声が響き渡った。
ルカは耳を押さえながら顔ををしかめる。
口の動きだけで誰からの連絡か尋ねるジェンに、ルカも口パクでミーナから、と答える。
『…って、ミーナちゃん、呼び捨てはやめようよ。
僕、叔父さんだよ?』
『そんなこと、どーでもいいの!それよりも――』
どうでも良くはないんだけどなぁ、と思いながら、ミーナの言葉を聞く。
そして続けられた言葉に、ルカは慌ててジェンを見た。