○ Brave sword ○
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ルカの家の居間。
すっかり遅くなってしまった朝食を食べ終わり食後のお茶を飲みながら、ジェンはふと天井を見上げる。
ちょうどその辺りにアイラの部屋があって…気分が優れないからと、そこに引きこもったままの部屋の主の顔を思い浮かべ、大きくため息をついた。
黒いアークナイト『シーリア』との戦闘の直後、馬を飛ばしてやってきたらしいルカは、ジェンが変身を解くのも待たずに口を開いた。
曰く、クロウが行方をくらませた、と。
一体何を言っているのかわからないと首をひねる自分を、ルカはとりあえず急いで来てくれと急かす。
道すがら事情を詳しく説明してくれたが、その内容に思わず眉をひそめた。
行方不明だったクロウが、レイジスの計らいでとある治療院に保護されていたこと。
だが、その治療院から忽然と姿を消してしまったこと。
「ジェンが飛び出していって、すぐ後ぐらいかな。
アークナイト1号の…えーっと、レイジス・ディーンだっけ?
あの人がいきなりウチに飛び込んできて、いきなりアイラさんに向かって、『クロウをどこへやった?!』って怒鳴りはじめてさぁ…事情を聞きだすのに、一苦労だったよ」
なぜそこでアイラに尋ねるのか?
クロウを連れ出したのはレイジスで、アイラも自分たちもその行方を追っている立場なのに。
疑問を口にするジェンに、ルカは困ったように肩をすくめる。
「アイラさん、クロウさんの居場所を知ってたんだって。
あの時…サーチで街の治療院にいるのを探し当てて……」
そこでレイジスと鉢合わせして、クロウに会い、その状況を知ったらしい。
なぜ、そのことを黙っていたのか?
治療院に居たアイラと顔をあわせそう尋ねたが、返ってきた答えはあまりにも歯切れの悪いもので。
ウソではないかもしれないが、明らかに真実を語っていないその言葉に、怒りよりも、打ち明けてもらえなかったという、失望感の方が大きかった。
たしかに、自分はまだ頼りないかもしれない。
でも、そこまで信頼されていないとは思っていなかった。
顔をあわせたレイジスも、クロウが消えたことでひどく焦って苛立った様子で、ロクな会話も交わさないうちにその場を立ち去った。
おそらく、クロウの行方と手がかりを探しに行ったのだろう。
結局、自分は何も知らないまま戦ってきたのだと、つくづく実感する。
そして、まだまだ信頼されない、守られる立場のヒヨッ子なのだ、とも。
再び大きなため息をついて、手元のカップに目を落とす。
そのとき、来客を告げる呼び鈴が鳴った。
キッチンで洗い物をしていたルカが、立ち上がりかけたジェンを制して玄関へと向かう。
しばらくして、ルカが小さな来客を伴って居間へと戻ってきた。
「やあ、ミーナちゃん」
珍しい来客に笑顔で挨拶をするが、いつもと違って少女に元気がない。
とりあえずソファに座らせ、どうしたのか尋ねるルカに、ミーナは真剣な顔で彼を見上げる。
「ねぇルカ、『口寄せの洞穴』って知ってる?」
「くちよせのどうけつ?なんだ、それ?」
聞きなれない言葉に眉を上げてルカを見れば、彼は少しだけ首をかしげて説明をする。
「この辺じゃそこそこ有名なミステリースポットだよ。
海の近くの洞穴でね、そこに入ると死んだ人の声が聞こえるっていう…。
でも、ミーナ。そこがどうかしたの?」
「私、そこに行きたいの!
行って、お父さんの声が聞きたい!!
ねぇ、ルカ、連れて行ってよ!」
すごい剣幕でまくし立てる姪に、ルカは目を丸くする。
「待ってよ、ミーナちゃん。
いきなりどうしたのさ?何かあったの?」
穏やかな口調でなだめる彼に、ミーナは口を尖らせる。
「別に、なんでもない。
ただ、お父さんの声が聞きたくなったの。
お母さんに頼んだけど、許してくれないし…」
「うーん…僕が連れて行ってあげてもいいけど、姉さんの許可がないとなぁ…」
「…いいよ。ルカが連れて行ってくれないなら、1人でもいくから」
「え、それはダメだよ」
2人のやり取りを見ていたジェンは、首をかしげる。
「ルカ、その口寄せの洞穴ってのは遠いのか?」
「別に遠くはないけど…ミーナちゃんが1人でいくにはちょっと……。
あ、待って。姉さんから連絡が…」