両手いっぱいの花束を君に(1話〜30話)

□両手いっぱいの花束を君に十五話
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ちょうど職員会議が入っているらしく、保健室には誰もいなか
った。
本来ならば、教師の留守中に生徒が悪戯しないように鍵をかけ ておくべきではないだろうか。
だが、このアッシュフォード学園の教師たちは、生徒を信用し ているという言葉で表現すれば聞こえはいいのだが、やけに大 らかというか…面倒がりなところがある。
もちろん理事長の孫ということも起因しているのかもしれない が、生徒会長のミレイがあれほど好き勝手できるのも、そのせ いなのかもしれない。

「…先生、いないんだ」

ルルーシュが呟いた。
拗ねたように唇を尖らせているさまが可愛かった。
スザクはふうと吐息して、

「保健室なんて大げさだよ、ルルーシュ。先生もいないことだ し、生徒会室に戻ろうよ」

と提案した。
いや、だが。

「…あ、と…ルルーシュ。その、生徒会室に戻る前に、さ」

お前は卑怯だ、と言われた。
ルルーシュを悲しませて、ただいじけてばかりで。
そうだ。その通りだ。
そして、いざルルーシュが誰かと恋愛に落ちるかもしれないと いう段になって、慌てふためいている。

(身分違いだとか、さ…)

都合のいい言葉を逃げ道にして、逃げているだけじゃないか。
確かに、皇女と平民の自分では、身分違いだ。
けれど、今まで一度だって、ルルーシュがそんなこと気にしたこ とあっただろうか?
彼女が皇女であることは、初めてであった時から変わらない事 実だ。
いつも気にしているのはスザクの方。
ルルーシュはいつだって、まっすぐにスザクに向かってきてい たというのに。
リヴァルの言う通り、スザクは卑怯だ。
本当に、どうしようもない卑怯者だ。
相手を自分の方に振り向かせる努力もしないくせに、怖がって 逃げているばかりだったのだから。

「ルルーシュ…」

これ以上、逃げていてもどうしようもない。
自分の想いも告げないまま、ルルーシュが誰か別の人間を愛し てしまうくらいならば。
それなら、たとえその一瞬が辛かったとしても、想いを受け入 れられることがなかったとしても、相手にぶつかってみた方が いい。
もしかしたら、ルルーシュもそう思ってくれているのかもしれ ない。
ずっと自分を避けていた彼女が、今こうして自分に向き合って くれているのだから。
もう一度名前を呼ぶと、ルルーシュが幾分緊張した様子でこち らを見た。

「…ル…」
「スザク、…スザクは…ユーフェミア姉様とは…」

スザクより早く、ルルーシュの方が口を開いた。
一瞬、ためらうように目をふせて、けれどすぐにまっすぐとこ ちらを見つめてくる。
驚くほど強い視線だった。

「…ユーフェミア姉様とのこと、ちゃんと聞かせてほしいんだ 。スザクは、姉様のことをどう思ってるんだ…?」

自分たちの仲をルルーシュは気にしている。
それが一体どういう意味を持つのか。
スザクの胸に、淡い期待が生まれる。もしかして、ルルーシュ は…。

「僕はユーフェミア様のことは、君の姉上としか思っていない 。それ以下でも、それ以上の存在でもありえない。…もちろん 、騎士の申し出も断った」

ルルーシュがほお、と息をはく。
今度は。

「ルルーシュ、僕も訊きたいことがある。…君が会長さんと付 き合っている、という話は本当なのかい? その…確かに君た ちは女の子同士だけど…会長は…」

常々、ミレイはレズビアンだという噂があった。
真義は分からないが、少なくとも、可能性がないというわけで はない。
スザクの言葉に、ルルーシュは薄く唇を綻ばせ、

「…会長がレズっていう噂、スザクも信じてるのか? あの人 は別にそういうんじゃないよ。同性同士っていうのに偏見はな いつもりだけど…俺と会長は、さ。
会長は俺に協力してくれたんだ」
「協力? って何の?」

その問いにはすぐに答えずに、ルルーシュはただまっすぐにス ザクの顔を見つめてきた。
ゆっくりと手をのばす。
頬にふれた指先は、かすかに震えていた。

「スザク…俺、俺は…」

その時だった。
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