両手いっぱいの花束を君に(1話〜30話)

□両手いっぱいの花束を君に十八話
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ルルーシュの唇はとても柔らかく、甘かった。
かすかに感じるぬくもりに、胸が高鳴る。

このまま。
ずっとこのままでいられたら。
愛しい人をこの腕に抱いて、ひとときも離さずにいられたらど んなにかいいだろう。
けれど、それはかなわないことだと、スザクには分かっていた 。

「…ごめん」

唇を離し、謝罪の言葉を紡ぐ。
何も知らない相手に、こんなふうに一方的に気持ちを押し付けるなんてフェアじゃない。

「…どうして…謝るんだ? キスは…いけない、こと…?」

長い睫毛をしばたたかせながら、ルルーシュは問うた。
手をのばし、スザクの唇と、自分のそれとに交互に触れる。
なぜルルーシュはこんなにも冷静なのだろう?
彼女の意志など関係ない行為をあっさり享受できてしまうのは 、スザクがルルーシュにとっての「親友」だから?
スザクは頭を振る。

「…違う。キスが…いけないことなんじゃない。…僕が君の意 志を無視したことがいけないんだ。僕は…」

続けようとした言葉を、ルルーシュが指で制する。

「…スザクは、17歳の僕のことが…好き、なのか?」

問いかける声がかすかに震えているのは、気のせいだろうか。
いいや、そうではない。
キスという行為よりも、ルルーシュはスザクの「気持ち」に戸 惑っているのだ。
今、ここで告げてしまっていいものだろうか。
スザクは躊躇した。

「僕、は…」
「…ごめん、僕が訊くことじゃ、…なかった」

思い詰めた表情で、ルルーシュが言った。
美しい面は紙のように白く、顔色が悪い。
両手を胸にやり、苦しそうに身体を丸めた。
具合が悪いのだ。
スザクは華奢な肩に手をやり、ベッドに横になるようにと促す 。

「大丈夫かい? ごめん…僕が…」

謝罪するスザクに、ルルーシュは弱々しく頭を振った。
はあ、と小さく息をつく。
はらりと揺れた前髪が、ひどく頼りなさげに見える。

「…スザクが…悪いわけじゃない、と思う…。ただ、…なんだ かとても胸が苦しくてっ…。 スザクが、17歳のスザクが…17歳の僕のことをどう思っている んだろうって考えたら、…胸がすごく痛くなった…」
「…胸が…?」

階段から落ちた後遺症なのだろうか?
軽い打ち身だけだとは言っていたけれど…。
スザクは心配になった。

「…ルルーシュ」

どうしていいか分からなくて、反射的に、柔らかな黒髪を撫で る。
すると、ルルーシュは少しだけ表情をゆるめ、

「…大丈夫。スザクさえよかったら…少しだけ、そうしててく れないか?」
「もちろん。構わないよ」

今のルルーシュにとって、スザクは「大人の男」だ。
自分の中に、父親の姿を重ねているのだろうか。
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