本編寄りスザルル小説(一期)

□この道が二人を分つまで
3ページ/3ページ

***

子供の頃は一緒に風呂にも入ったこともある。
今だって、裸を見たことがないわけでもないのに。
月明かりに照らされた鍛え抜かれた身体を目にすると、ひどく胸が騒いだ。

(傷だらけ…)

訓練の時に負ったものだろう。
子供の頃は傷ひとつなかったのに。
この傷のひとつひとつに、スザクはどんな想いを抱えてきたのだろうか。

「…これ、あの時撃たれた…」

左胸。
何かがかすったような跡。
再会したあの時、スザクがルルーシュをかばって受けた傷。

「ああ…。でも、かすっただけなんだ。ちょうど時計にあたって銃弾がそれて…」

スザクは笑う。
その笑顔が、ルルーシュには痛々しかった。
ルルーシュは、傷跡に唇を寄せ、くちづけた。
ぴくん、とスザクの身体が震える。

「…危ないこと、してるんじゃないのか?」
「危ないこと? ないよ、そんなの」

訊きながら胸に耳を寄せた。
規則正しい鼓動。
こんなふうに、心底嘘をつけるようになってしまったのだ。
昔のままではいられない。そう、ルルーシュだって変わった。

優しい嘘。
ルルーシュを心配させないための。
けれど、何もかも分かっているルルーシュにとっては、それは残酷な嘘でしかない。

(それは俺も…同じ…)

誰にも言えない秘密。
ずっとずっと。ゼロになる前からずっと。
嘘で塗りかためてきたルルーシュの人生。
そして、これからも。

だけど今だけは。

(この気持ちだけは…嘘じゃない)

目の前で、緊張した顔をしているスザク。愛しいと思った。
ルルーシュを抱きしめたまま、次の動作に迷っている恋人を導くように自分から手を のばし、その頬に触れた。ただ、触れるだけのキス。
それをきっかけにして、スザクの中の迷いが消えた。
なめらかな素肌を滑り降り、ルルーシュの熱に触れてきた。大きな手は少し荒れてざ らざらしていた。
自分の手以外に触れられた経験などないから、どうしていいか分からない。

「…んっ…、スザク…そんなとこ、…」
「…駄目? 気持ち悪い?」
「…そ、じゃなくて…」

遠慮がちに与えられる愛撫。
壊さないように、傷つけないように。

「…そ、…じゃなくて…もっと、…強くして…。ちょっと…もどかしい…」

優しいキス。甘い言葉。そして、遠慮がちな抱擁。
ほんのりと汗の匂いのする身体。
触れてくる腕の逞しさに、胸がつぶれそうになる。
何もかも忘れてしまえるように、強く抱きしめてほしい。

「…あ、っ…、んんっ…!」
「…っ…、ごめん、ルル…」

スザクが腰を進める。
中に感じる、やけどしそうなほどの熱いもの。
ルルーシュを狂わせ、よがらせる。

「…っん…」

じわりと広がる。身体の中が濡れる感覚を初めて味わった。
ひどく熱かったはずのものが、少しずつ冷えていく。
どんなに狂おしく求めても、一つにはなれない。

はあはあ、と息を乱すルルーシュを、スザクは優しく抱きしめた。
頬に落ちてくるやわらかなキス。

「…ごめん、痛くなかったかな」
「バカ…」

何もかも言わせようとするのはルール違反だ。
ルルーシュが告げると、「随分慣れてるみたいな言い方する」とスザクが拗ねた口調 で返してきた。
それには、わざと答えずに、ルルーシュは腕の中で身体を反転して、スザクに背を向 けた。
めげることなく、スザクは背中ごしに抱きしめてきた。

「…ルルは、痩せ過ぎだね。こんなに細くて、だから僕は君を壊してしまうんじゃな いかって不安になる」
「お前だって細いだろ」
「僕の方が筋肉はあるよ」

強い腕。
ランスロットをあやつる、腕。
ルルーシュはスザクの手にそっと自分の指を絡めた。

「…ねえ、ルル。僕は…僕、君を守るよ。君のいるこの世界を。たとえそれが…どん なに苦しいことでも」

ルルーシュのいる世界。
それは。

「…だから…ずっと、どうかずっと…僕の側にいて」
「…スザク」

ずっと側に。
いつか、二人の道が完全に分たれるその日まで。

ルルーシュは何も言わず、ただ、ぎゅっとスザクの手を握りしめた。
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ