芸能人スザルルコシリーズ

□レンアイシフォン
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一体全体、何がどうなっているのか。
滅多なことで慌てない、鉄の心臓を持つ自分でも、さすがに焦ってしまう。

「あ、スザクくん。おつかれさま」
「おつかれさまです」

しかし、そこは平然として見せるのがプロというものだ。
「俳優」として、ギャラを貰っているのだから、そんなの当然のこと。
心で汗をかき、顔は涼しく。
それが、この世界の鉄則である。

(…おかしいな…。今日は、空けておいてって言われたのに…)

口元に、相手からは不自然と思われない、だが、自分としてはとんでもなく不自然な笑顔をはりつけ、スザクはあたりをきょろきょろ見回した。

いない。やっぱりいない。
どこにも。

(なんで、ルルはどこにもいないんだっ!?)

心の叫びは、当然、誰の耳にも届くことはなかった。


* **

今日は、スザクこと枢木スザクの誕生日である。
子供じゃあるまいし、お誕生日会などという柄ではないが、何よりも大切な恋人が祝ってくれるというのなら、話は別である。

さかのぼること三日前。

味気ないロケ弁を、二人仲良くつついていると、ルルーシュがもじもじと話を切り出した。

『…誕生日、…予定、入ってる?』
『…誕生日? って、…誰の?』

もちろん、誰の誕生日をさしているのかなんてちゃんとわかっていた。
内心にやにやしながら、平然と返すと、ルルーシュは桜色の唇をつんと尖らせた。

『…誰のって…そんなの決まってるでしょ』

ふん、と顔を背ける様が、可愛らしい。
抱き寄せて、頬にキスをした。柔らかな黒髪からは、甘い花の香りがした。
一房とり、指で弄ぶと、感じやすいルルーシュは、「くすぐったいからやめて」と、小さく笑った。
そして、髪を弄んでいた指に、自分のそれを絡め、「指切りして」と唐突なお願いをしてきた。

『…スザクの誕生日、ちゃんと空けておいてね。…他のパーティは入れないで。二人だけで…いたいから』

白磁の頬を染め、呟く恋人。
もちろん、異論があるはずはない。
というよりは、その日は、最初から、空けてあった。
ルルーシュがそう言ってくれなくても、強引にでも、二人きりでお祝いしてもらおうと。
ルルーシュは優しいし、スザクに甘いので、多少のわがままは許してくれるはずだ。
もちろん約束するよ、と指切りではなく、キスを送ろうとすると、人差し指を唇におしあてられた。
キスを遮られ、不満げに鼻をならすと、「ちゃんと聞いて」と神妙な表情を向けられた。

『あと…何があっても、驚かないでね。スザクは、とにかく、待っていてくれればいいから』

今思えば、あれはおかしかった。
何があっても驚くな、などとあえて付け加えてくるなんて。

(…どうせ、ジノたちの邪魔が入るだろうから…どんと構えてろってことかと思ったけど…)

何かというと、邪魔をしてくる、でこぼこ三人組。
ジノ、アーニャ、ロロ。
スザクと同じように、ルルーシュに想いを寄せる三人組は、理由をつけては二人の間に割り込んでくる。
当然、今回もそれは予想されたが、スザクにとっては、たいした問題ではない。
もちろん、腹が立つことは多いが、基本的に、スザクは、三人を相手にしてはいなかった。
うぬぼれていると言われればそれまでだが、ルルーシュが、あの三人に心を移すことなどありえないからだ。

むしろ、あんな外野よりも、気になるのは、シュナイゼルの方だ。
ルルーシュの実の兄だが、とにかくダンディで、非の打ち所のない男で、ルルーシュを溺愛している。
ここの絆の方がよほど、スザクにとってはよほど脅威だ。

(…いや、そんなことは今はいい)

考えていてもきりがない。
大体、今は、ルルーシュを見つけることが最優先事項ではないか。

「…本当にどこに行ったのか…。…まさか、ジノたちがさらったんじゃないだろうな」

以前、ルルーシュに誘われたから…とはいえ、あの三人はルルーシュをカラオケに連れていったという前科がある。
間違って酒を口にしてしまったらしく、ルルーシュが酔っぱらって帰ってきたのだと、その場にスザクがいたものと誤解したシュナイゼルに、こってりとしぼられたのだ。
結局、すぐに誤解は解け、こちらが恐縮するまでに謝罪してくれたし、ルルーシュにはたっぷり優しくしてもらったので、もう根に持ってはいないが…。

(…一度は許したが、二度目はない)

そんな誓いをたてていると、「お、スザク」と能天気な呼び声とともに、ジノがやってきた。
よ、と手をあげると、「姫、見なかった?」と訊いてくる。
ちなみに、「姫」とは、ルルーシュのことである。

「…見てないけど。お前…知らないのか?」
「だから訊いてるんだろ? 何言ってるんだよ、お前」

かかか、と朗らかな笑い声をたてて、ジノは「そうだ」と肩にかけていた鞄から、何かを取り出した。

「これ。今日、お前の誕生日だろ? 優しい先輩としては、やっぱ、プレゼントははずせないからさ」
「え…ありがとう」

なんと意外な。
ジノから、バースデイプレゼントが送られるだなんて。
まさか、時限爆弾とかではないか?
…と、漫画のようなことを想像したが、もちろん、そんなことはなかった。


「姫がいなんじゃ仕方ないから、もう帰るわ。…バースデイなら、お前もカラオケに連れてってやろうかと思ったけど、お前とだけ行っても意味ないし」

つまり、バースデイと言いつつも、スザクはおまけだ、ということだろう。
なんとも小気味いい。
ここまではっきり言われると、いっそ爽やかだ。

(…俺には、予定があるし。こっちだって、ジノたちとカラオケなんて行きたくないし)

心の中で返すが、「予定がある」ということは、他言してはならない。
スザクの予定=ルルーシュの予定と結びつくのは、明らかだからだ。

「じゃ、まあ…明日は、とりあえず、お互いゆっくりってことで」
「ああ」

明日は、撮影の合間の休養日だ。
休養日、などとうまいことを言っているが、脚本があがらなかったので、撮影にならないらしい。

「あ、そうだ」

突然、何かを思い出したらしく、ジノはスザクの肩を抱き寄せると、耳元で囁いた。

「…明日休みだからって、あんまり無茶すんなよ。姫は、体力ないんだから。今日は、バースデイだから、邪魔はしないけど、明後日からはまたがんがん行くからな」
「…へ」

悪戯っぽくウインクして、「じゃあな」と走り去った。

すっかり毒気を抜かれ、スザクは遠ざかる背中に小さく手を振った。

「……あいつ、…結構いい奴なのかな」

もしかして。
自分が思うほど、ジノには嫌われていないのかも、しれない。


***

ジノとの語らいの後、さらに30分が経過しても、ルルーシュは見つからなかった。

何が起きても驚くな。必ず待っていてほしい、という謎の言葉。
じっと考える。

(そういえば)

ルルーシュは、別に、「スタジオで待っていてくれ」とは言わなかった。
ということは。
既に、スザクの住居に向かっている可能性がある。
合鍵を所持しているからだ。

(…馬鹿だな)

どうやら、自分が思っている以上に、浮かれていたらしい。
そんな簡単なことにも気づかないなんて。
失笑しつつ、急いで帰宅しようと、一歩踏み出した時だった。

「…枢木スザクだな」

突如、感じた殺気。
なぜ今まで気づかなかったのだろう。
はっとするが、時既に遅く。

「…むぐっ…、う〜…っ…」

まずは口を塞がれ、次には、目隠しされ。
さらには、後ろ手に縛り上げられる。
ひょいと身体が浮かぶ。どうやら、肩かどこかに担ぎ上げられたらしい。

「おとなしくしていれば、命まではとらない」

低く、語りかける声に、聞き覚えはない。

(…親父の関係か?)

命はとらない、と明言しているが、それを信じていいかどうかは微妙だ。
しかし、それなりに売れているとはいえ、まだ駆け出しの俳優を誘拐しても、何の得にもならない。
だとすれば、考えられるのは、父、枢木ゲンブの筋だ。

庶民的すぎて、時々忘れられがちだが、スザクの父、ゲンブは、枢木財閥の総帥だ。
ありうるとすれば、父に対抗する何らかの勢力だ。
子供の時から、何度も誘拐されかけて、その予防策もあって、空手だの何だのを習うようになったのだ。
結果的に、武道の道は、スザクにはかなり向いていたわけだが…。

(…こんなところで時間をとられるわけにはいかないのに)

身動きが全くとれない、縛り上げられた状態でも、スザクは少しも慌てていなかった。
自分なりに対処出来る自信はある。
あれほどの殺気を感じなかったのは失態だが、いくらでも挽回はできるというものだ。
心を研ぎすませて、相手の隙を見つけるのだ。
その時こそ、逃げ出すチャンス。
とりあえずは、様子を見よう。

どうやら、男は歩き出したらしかった。
不安定な身体の揺れが、それを示している。

バタンという音。
車にのせられたようだ。
人質というわりには、丁寧にシートに横たえられる。(目隠し、さるぐつわ、そして縄はそのままだが)

共犯はいないらしく、後部座席(そう推測する)のドアを閉めて少したってから、車が走り出した。
つまり、運転手はいないということだ。


およそ10分ほどで、目的地についたらしく、車は停車した。
ドアが開き、足を引っ張られた。
引きずりおろされると同時に、またも肩にかつがれる。
この間、少しも隙が見つからない。
相手は、相当の手練ということか。

(…いや、まだチャンスはあるはず)

あきらめてはいけない。
落ち着いて様子を伺うのだ。
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