スザルル新婚さん小説

□サンタクロースにくちづけを
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今日は楽しいクリスマスイブ。
聖なる夜に歌を、恋人たちに愛の祝福を…。


「…ジェレミアさん、ケーキはどうなってるんですか?」

サンタ帽子に、なぜか真っ赤なつけ鼻をさせられ、あやしいサンタクロースの格好を
したスザクは不機嫌さを隠そうともせずに、厨房でせっせとケーキづくりに励むジェ
レミアに声をかけた。
そう、今日はクリスマスイブ。
クリスマスケーキの販売のバイトに狩り出されたはずなのに、スザクの前にはクリス
マスケーキの「ク」の字もなかった。
普通のケーキはとうに売り切れて、ケーキを求める客たちが血走った目でこちらを見
ている。
スザクの問いに、しかし、ジェレミアは「あと三時間待たせろ」と一言。
三時間待て、だって?
クリスマスイブにケーキを買いにきた人たちに「あと三時間待て」??
スイーツショップにケーキが一つもない状態で店をあけてること自体おかしいのに、
そんなことを言うなんてありえない。
スザクはむっとして、

「そんなの自分で言って下さいよ。僕は嫌です。大体、ジェレミアさんの手が遅いか
らいけないんだから」
「ああ? 私の手が遅いだって? どこをどう見ればそうなるんだ。エセサンタめ。
まだ4時じゃないか。三時間待ったって7時。クリスマスディナーには充分間に合うだ
ろうが!」
「僕をエセサンタにしたのはあなたでしょうが! 7時なんて子供たちにとったらも
うおねむな時間なんですよ!」
「はっ、クリスマスは子供のものだけじゃない。それにうちのケーキを求める客たち
は年齢も地位もそれなりの人間ばかりなんだ。7時におねむになるようなガキには用
はないね!」

言うだけ言って、ジェレミアはバタン、と厨房と店の間のドアを閉めてしまう。
ご丁寧に鍵までかけて。
もう金輪際二度と声をかけるなとそういうことだろう。

「なんって傲慢なんだっ! 初めてここのバイトやめてやろうって思いましたよ!」

スザクは、隣でやはりサンタガールの格好をしているヴィレッタに声をかけた。
エセサンタ姿のスザクとは違い、ヴィレッタは大層美しいサンタガールに変身してい
る。
超ミニのスカートの裏側に使い捨てカイロが貼られているのは…最重要機密事項であ
る。
ヴィレッタは苦笑しつつ、

「まあそう怒るな。こっちは私が何とかしておいた」
「あ、あれ? あんなにいたお客さんが…。一体どこに?」

気付けば、店の前には血走った目をした客は一人もいなかった。

「何をどうしたんですか? ヴィレッタさん?」
「簡単だ。予約をとった。三時間後きっかりで」
「え…予約? でも、三時間きっかりでそんなことして大丈夫なんですか? もし…」

出来なかったら、という言葉は、ヴィレッタの人さし指に阻まれる。

「大丈夫だ。ジェレミア卿が三時間後といったら必ずそうなんだ。時間の遅れは心配
する必要はない」
「はあ…そうですか」

恐ろしいまでの信頼関係。
この二人、これで色恋の関係じゃないというのだからすごい。

「はああ…。三時間もここで仕事なしで…」
「どうした、枢木。元気がないじゃないか?」

問われて、スザクはさらにため息を深くする。
そう、今日のスザクは元気がない。
だって。

「……ルルーシュと喧嘩してしまって」
「ほお? 珍しいな、お前たちが喧嘩だなんて」

そう喧嘩、したのだ。ルルーシュと。
今まで一度も喧嘩したことなかった、とかそういうことはない。
お互いに言いたいことははっきり伝えるようにしているし、それに伴って喧嘩するこ
とだってよくあることだ。
珍しいこともでない。
だけど。

「せっかくのクリスマスイブなのに…」

そう、二人きりで過ごすクリスマスイブ。
スイーツショップでバイトしている限り、多少つぶれるのは仕方ない。
その点はルルーシュも分かってくれていた。
ジェレミアじゃないけど、「バイトがはねてからパーティすればいいよ」と。
自分たちはもう大人だから、7時でおねむにはならないのだから。

「何だか根が深そうだな。話してみるか?」

切れ長の目を細め、ヴィレッタが訊いてくる。
声の調子は、いつもよりもワントーン優しい。
辛い時の優しさというのは、本当に涙が出るほど嬉しい。

「…実は…」
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