スザルル新婚さん小説

□Happiest Man
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「なあ…さっきから気になってたんだけど」

小首を傾げ、ルルが口を開いた。
もしかして読まれた!?
心臓が飛び跳ねそうって、こういうことを言うんだろうか??
僕はびくびくしながら、恋人を振り返った。

「な、なんだい?」

その様子にさらにルルは不思議そうに、「何びくびくしてるんだよ」と訊ねてきた。
しまったなあ…。今のは絶対まずかったよなあ。
つくづく思うけど、僕は不意打ちに弱いタイプだ。
それは分かってたんだけど…もうちょっとなんとか出来るよう訓練しておいた方がい
いかもしれない。
いつまでも答えない僕の様子に、ルルははあとため息をつく。

「まあいいけど…。それで、訊きたいことだけどさ、スザクはコートが欲しいんだろ?

「そ、そうだよ。だからさっきから見てる…」
「…これがコート?」

びろん、と僕の身体を包み込むそれをつまみ上げ、ルルは眉をひそめた。
一応、コート。いや、一応ではなく、まぎれもなくコートなんだが。
問題はサイズ。
男性サイズで、XXXXXXL。
僕が5人くらい入るサイズだ。

「…何かの仮装でもしたいのか?」
「まさかっ! 仮装のために、こんな金額を僕が払うとでも!?」
「…それなら、どうしてこの店に?」

ネットで調べてようやく見つけた、超大判サイズ専門店。
通常のバイト料+ちょっとしたボーナスが入り、懐があたたかくなった僕は、ちょっ
としたデート気分でルルと買い物に来ていた。
上手い具合に、ルルがずっと遊びにきたいと言っていた、できたてのショッピングセ
ンターの中にその店はある。
フードコートで、超大型の佐世保バーガーを食べ、食品街ではスイーツチェックをし、
ひそかにルルへのプレゼントを買い込み(ルルがトイレに行ってる隙に。これがなか
なか一苦労!)、そして、最後は僕の買い物。
よく着ているコートは、もうだいぶくたびれてきていて、ちゃんとしたものが一つ欲
しいなとずっと思っていた。
どうせならルルに選んでもらおうと一緒に来てもらったんだけど…。
やっぱり怪しかったかな。
超大判サイズなんて。
でも、大き目じゃないと困るんだ。
そう、どうしても大きくないと。
理想は…そうだな。袖と丈はジャストサイズで、身ごろ部分に1.5人分くらいの余裕
があることだ。
そう。
XXXXXXLは、身ごろだけじゃなくて、全部が大きいからおかしく見えるんだ。
それこそ、仮装みたいに。
僕はルルの問いかけに「ここのコートのデザインが気に入ったから」といかにも嘘く
さい言い訳を返しつつ、すぐ側で僕たちの様子をはらはらと見守っている店員に訊ね
た。

「あの…。色と形はこれでいいんですけど、袖で丈はもうちょっと短くて…で、身ご
ろはこのままでお願いしたいんですけど、直しはどのくらいかかります?」
「…はあ…。ええと…その…。まあ、直しは出来ないことはないですが、…失礼です
けれど、大層面白いデザインになるかと思いますが。はっきり申し上げますと、お客
さまのサイズにあうものは当店には…」

言いながら、店員はちらりとルルの方を見る。
短い会話の中で、二人の間では、ルルが主導権を握っていると…そう判断したのだろ
う。
ルルは彼女の意図をすぐに察知し、大きく頷く。

「まったくその通りだ。ほら、スザク。行くぞ。店の迷惑になる」
「え? いや、でも…」

まだ選んでるのに!
店員一人の意見でそんな…。別の人が見立てたらおかしくないかもしれないのに。
さらに言いつのろうとするが、宝石のように綺麗な紫の瞳が「絶対に許さない」とい
うように睨んできた。そして、それだけでなく。

「…一緒に店を出ないなら…リヴァルのところに泊まりに行くからな。いや、カレン
のところでもいい。一週間くらい帰らないぞ」
「ええっ。そんなっ」

リヴァルにしても、カレンにしても、ルルに対して特に恋愛感情のようなものがない
ことは確認済みだから(カレンはちょっとだけルルに憧れたことがあったらしいが)
そういう点での心配はないけれど。
でも、一週間も離ればなれなんて! そんなの耐えられるわけがない。

「ル、ルル…あの、これは…」
「…どうする? それとも…スザクはそんなに俺と離れていたいのか」

だいぶ声のトーンが落ちてきている。
もしかして…怒って、る?
やばいかな…。僕はしぶしぶ「分かった。店を出るよ」と宣言する。
いくらデートしたかったからって、この店に二人で来たことが間違いだったんだろう
か。
一人で来ても全然構わないのだが…何となくまた来ても、意味がない気がする。
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